第6話 スレールのお願い事
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「スレール、今度はお前の願い事を聞く番だ!」
フェイは偉そうに言った。
ウィルはフェイに感心した。この泉が『ミーミルの泉』ではないと分かった途端に「次へ行こう」とスレールの頼み事を無下にすると思っていたからだ。
「女に弱いのか?」
「なんだって?」
ウィルがぼそりと感想を呟くとフェイが顔を近づけてきた。ウィルは「なんでもない」と誤魔化してスレールに詳細を訊ねた。
「お願い事ってのはこの泉に関すること?」
「いいえ、違うわ。あそこ」
スレールは泉のほとりに生えた木の方を指さした。
「あの木の傍に今、私が住んでる小屋があるの」
指の先に目をやると、今にも崩れそうなボロボロの木造の小屋があった。屋根や壁の一部が朽ち果て穴が空いている。周囲に背の高い雑草が生い茂り、人が住めるような環境ではないことが遠くからでも確認できた。
「あの小屋を直せってのがお願いか?」
フェイは小屋を観察するように目を見開いたり細めたりした。
「魔術でも複雑なものは作れないぜ?」
「違うわよ。あそこには私の他にもう一人いるの」
スレールは説明を始めた。
「グラムって言う私くらいの歳の男の子で、どちらも身寄りがないからここで一緒に暮らしてるんだけど、少し前から体調を崩してベッドから動けなくなってしまったの。病院なんて行けるわけないし、そもそもグラムが『普通の人には治せない』って言うの。だから私はグラムを治せる魔術師を町で探していたのよ」
「そこで俺を見つけて、魔術でその子を治そうと考えた」
ウィルが推測するとスレールは頷いた。
「誰でも良かったわけじゃない。これまでもたまたま町に来た魔術師はいたのよ。でも頼めなかった。話しかけることすら躊躇ったわ。……でもウィルは違った。信用できる人だって思ったの。だからお願いしたの」
スレールは真剣な面持ちでウィルに依頼した理由を告げた。
ウィルは微笑むと立ち膝をついて目線を合わせた。
「分かった。俺にできることがあれば協力する。これまで一人で友達を助けて偉いな」
ウィルの言葉を聞いて、笑顔になるスレール。
「さぁ行きましょう」
そう言ってスレールは駆け足で小屋に向かった。
「おい、ウィル。魔術で病気は治せないのに、協力するなんて言っていいのかよ」
二人になったタイミングでフェイは訝しげに訊いた。
「その少年はおそらく自分の状態を理解している。だから『普通の人には治せない』なんて言ったんだ。少年の抱える問題は病気じゃないのかもしれない。そう思ったから引き受けたんだ」
ウィルの言い分にフェイは溜息をついた。
「スレールに泣かれても助けてやらねぇぞ!」
「あぁ、わかってるよ」
ウィルとフェイはスレールの走る姿を眺めながら再び歩き出した。
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