第4話 前を向いて生きている

   □


 ウィルとフェイはスレールに連れられ、町外れに広がる雑木林の中を歩いていた。


「お前の言うお願いってのはなんなんだ?」


 二人の頭上を飛行するフェイがスレールに訊ねた。


「説明はその場所に着いてからの方が良いと思うの。もう少しで着くから待って」


 フェイはお預けを食らったような気分に顔を顰めたが、催促はしなかった。


「あなたたちはどうしてこんなところに来たの?」


「俺たちはある物を探して旅をしてる」


 スレールの問いに答えるウィル。


「それってお宝? あぁ、でもこんなところにあるわけないか。ここって何もないし、廃れてるし。最近じゃ住む場所がない人たちが集まってきて治安も悪くなる一方だし」


 スレールはウィルへの問いに対する答えを、町の現状と照らし合わせて自らで出した。

 そんなスレールにフェイは疑問を投げかける。


「なんでお前はこんなところにいるんだ? 一人なら自由気ままに好きなところに行けばいいだろ」


「……私、この町から出たことないの。だから外の世界がどんなところか分からない。私にとってはここも外も同じくらい怖いの。それにお父さんとお母さんのお墓もあるし……って自分で作ったんだけどね」


 少し悲しげな表情を見せるスレール。


「お父さんとお母さん……殺されたんだ。私はお母さんが逃がしてくれて助かったけど。––––私たちは呪われた一族なんだって。だから生きてちゃいけないんだって」


 スレールの沈んだ声は徐々に小さくなっていき、言い終えるのと同時に足が止まった。

 ウィルとフェイも立ち止まり、スレールに目を向ける。そして彼女が送ってきたであろう凄惨な日々を想像して悲哀の念を抱いた。


「でもお父さんとお母さんは『そんなことない』って、『みんなと変わらずに生きてていいんだ』って言ってたの。何も悪いことはしてないんだからって。私はその言葉を信じている。だから二人の分まで生きることにしたんだ」


 二人はスレールの力強い目つきと言葉に前向きさを感じ、彼女に対して憐れみを抱くのは間違いだと思い直した。


「お前も両親も強いやつだぜ!」


「そうでしょ!」


 フェイの言葉に誇らしげにするスレール。

 そして三人は再び目的地に向かって歩き出した。


   □


「それで? ウィルたちは何を探してるの?」


 スレールは話題をひとつ前に戻した。


「俺たちが探してるのは泉だ。名は『ミーミルの泉』。この世界のどこかに湧いている泉の水を手に入れるため各地を旅してる。ここに来たのは、この町のどこかに女神が残したとされる泉があるって噂を聞いたからだ」


「もしかしたらそれが『ミーミルの泉』かもしれねぇ。俺たちはそれを確かめに来たんだぜ!」


 ウィルの説明にフェイが続けた。


「泉? あなたたち、泉に行きたかったのね。それならちょうど良かったかも」


「どういうことだ?」


 スレールの言葉に、フェイは首を傾げた。


「だって今向かってる場所が、その泉なんだもん」

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