第3話 スレール・アロ

   □


「お願い?」


 ウィルは少女の真剣な目つきから簡単なものではないと悟った。


「俺が魔術師なのと関係あるのか?」


 少女は頷いて肯定した。

 ウィルは困った顔をした。少女の頼みを受けたい気持ちがあるものの、通りで待つフェイが許さないだろう。

 フェイには以前頼みを聞いてもらった。だから「今回は俺の頼みを優先しろ」と言うに違いない。


「私が男たちに捕まったのはあなたたちの責任でもあるのよ」


 少女の頼みを受けるかどうかの回答を渋っていると、少女が口を開いた。


「俺たち?」


「そう。あなたとあなたの頭の上に乗ってた喋る鳥」


 少女から「喋る鳥」という言葉を聞いて、激しく動揺するウィル。


「逃げてる途中によそ者のあなたたちを見つけたの。それだけなら捕まることはなかったのよ。でも鳥と喋ってるのが分かって、驚いて油断しちゃったの。だから捕まった。それにさっき怪我はないって言ったけど、本当は膝を擦りむいちゃったんだ。あぁ痛い……。歩けるかな」


 少女はこれみよがしに赤くなった右膝を見せた。


「わかったよ」


 ウィルはフェイに対して言い訳がつくと判断した。

 少女の顔がパッと晴れた。

 ウィルは通りにいるフェイを呼んだ。

 フェイは怪訝そうな面持ちで路地まで飛んでくるとウィルの前で留まった。もちろん少女がいるため言葉は発さない。


「フェイ、この子はお前が喋るところを見ていたそうだ」


「はあ?」


 ウィルの言葉に瞬時に反応し、声を上げるフェイ。


「やっぱり喋るんだ」


 少女は鷹のようなフォルムをしたやけに目の大きい鳥が喋る姿を見て嬉しそうにした。


   □


「私はスレール・アロ。よろしくね」


 ウィルがフェイに事情を説明した後、少女––––スレールは自己紹介した。

 フェイはまだ納得しておらず眉間に皺を寄せている。


「俺はウィリアム・レイマグナ。こいつがフェルニル。俺のことはウィルでいいよ。こいつのことはフェイと呼んでくれ」


 ウィルがフェイの分まで自己紹介すると、その横でフェイは不満そうに嘴を尖らせた。


「俺たちを脅すとはいい度胸だぜ、嬢ちゃん」


 悪態をつくフェイ。


「私は事実しか言ってないわよ、フェイ」


 ウィルが止める前に、毅然とした態度で言い返すスレール。


「助けたんだからお礼して欲しいくらいだぜ!」


「その場にいなかったあなたが言うセリフじゃないわ。それにお願いを聞き入れてくれたのは、ウィルなのよ」


 スレールは得意げな表情を浮かべた。

 フェイはああ言えばこう言うスレールのことを認め始めていた。自分に似た部分があると感じたためだった。


「しょうがねえ! その『願い』を叶え終わったら、今度はお前がこの町を案内しろ! 良いな、スレール」


「ええ、お礼はちゃんとするわよ」


 高揚気味にフェイが声を上げるとスレールはウインクしてみせた。

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