エピローグ② 遠い過去の真実

   □


「研究の成果を得られない責任を取って辞められたというのは嘘だったのですか……?」


 ウォーダンは当時のことを思い出していた。


「でも私は『魔術協会』の上層部から直接話を聞きました」


「協会の上層部は秘匿したかったのさ。私が密かに進めていた計画のことをね」


「計画?」


「私は〈魂魄魔術〉を利用し、国家転覆を計っていたのだよ」


 ウォーダンは予想だにしない回答に絶句した。

 対するファフニールは何の悪びれもなく笑みを浮かべながら続けた。


「しかし実行前に気付かれてしまってね。研究資料とともにやむを得ず逃亡した。でないと殺されていたからね」


 ファフニールは肩を竦める。


「待ってください。我々が研究していた頃にはすでに〈魂魄魔術〉は完成していたと言うのですか? ならば何故教えてくれなかったのです!? 〈魂魄魔術〉があれば妻は……アニーは死なずに済んだ。私の未来だって……」


 ウォーダンは絶望した。

 もしもの未来が存在していたことに。

 それが自分の望む未来だと知って。

 無念の気持ちに奥歯を噛み締め、ボロボロと涙が溢れ出た。


「君にとっては知りたくない事実だったようだね」


 ファフニールは憐れんだ。


「何をしている?」


 今までダンスホールに響かなかった声だった。

 ファフニールは振り返り、裏庭へ続くドアに目を向けた。

 そこには朱色の髪をした男が立っていた。スコルとハティのように黒い服装に身を包んでおり、ノースリーブの上着から引き締まった腕が伸びている。


「ユングリング様」


 ファフニールは男に体を向けると姿勢を正して頭を下げた。


「もう少しでここに『魔術協会』が来る」


 朱色の髪の男––––ユングリング・アルトノックスは肩まで伸びた髪を鬱陶しそうに掻き上げながらホール内に入った。


「ん? それは?」


 ユングリングは右手はある男のうなじを掴んで、ぐったりとした体を引き摺っていた。


「この男は『魔術協会』の人間だ」


 ファフニールの問いに答えると男を前方に投げ飛ばした。

 男は無抵抗のまま瓦礫が散らばる床の上に倒れ伏した。その衝撃でかけていた眼鏡が外れた。

 男はすでに死んでいた。


「あー『魔術協会』弱っちい!」


「ちい!」


 スコルとハティは笑顔で男の手足をおもちゃのように扱った。


「ねえユング。こいつ食っていい?」


「いい?」


 目を輝かせながら訊ねる二人。


「お前ら双子は……」


 ユングは呆れながら「ダメだ」と溜息をついた。


「ケチ!」


 二人は声を合わせた。


「それで目的の物は手に入れたか?」


 ユングはファフニールのもとに向かった。


「いいえ、しかしここの地下にある研究施設に行けばすぐに手に入るかと」


「何故それを知っている!?」


 ファフニールの返答にウォーダンは反応した。するとユングはしゃがんでウォーダンに顔を近づけた。


「俺は何でも知ってるんだよ」


 ユングは威圧した。

 ウォーダンは十代半ばほどの相手に気圧され、額に脂汗を滲ませた。


「じゃあ貰っていくぞ。お前が集めた罪なき人間の魂を」


 ユングは嫌らしく笑った。

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