第29話 家族の風景
□
クーラは疲労感から壁にもたれて休んでいた。
「大丈夫か?」
ウィルはしゃがみ込みクーラに様子を訊ねた。
「はい、何とか……。また助けてもらっちゃいましたね。ありがとうございます」
クーラは頭を下げた。
「お礼をするのは俺の方だ。玄関ホールでは助かった。ありがとう。それに守ると言っておきながら守りきれずにすまなかった」
ウィルは頭を下げて謝罪した。
クーラは慌てて恐縮した。
「な、何を言っているのですか。僕を守ってくれたからこんなにボロボロになってしまって……謝るのは僕の方です」
「それくらいにしとけ!」
謝り合戦が繰り広がろうとするのをフェイが止めた。
「すべての過程が今の結果を生んだんだぜ! 胸を張れ」
そう得意げに続けた。
「そうだな」
ウィルはフェイの言葉に同意した。
「それに傷なんてすぐに治る」
〈
その様子を不思議そうに眺めるクーラ。
「魔術って本当に凄いですね。僕にも使えたらな……」
クーラは今回の件で自身の非力さを感じ、魔術を羨んだ。
「使えるようになるさ。魔力はすべての人間にあるものだ。あとは知識さえ身に付ければクーラも魔術師になれるよ」
ウィルはクーラの胸に拳を添えた。
クーラはウィルの言葉に笑みを浮かべた。
「はい!」
意気込むクーラにフェイは余計なことを吹き込もうと近寄った。
「でも間違ってもこいつみたいになれると思うなよ。ウィルは特殊だ。同じ魔術を使っても一瞬で傷は治らん。まあこいつが特殊なのは俺のおかげだがな。前にも言ったろ? 俺は高貴な存在だって。俺の力あってこそのウィルの実力だ。どうだ? 敬いたくなっただろ?」
「そのくらいにしておけ」
長話しそうになるフェイを止めるウィル。
「まあ待て。これだけは言わせてくれ。いいかクーラ。いくら俺が凄くて、敬いたくなったとしても『様』は付けるなよ! 俺たちはダチだからな」
フェイは羽を指に見立てて親指を立てるポーズをとった。
クーラは胸が熱くなり、涙を流しそうになるのを堪えた。
□
「あとのことはあそこの『魔術協会』の人間に任せてあるから安心してくれ。ここを離れても働き口くらいは斡旋してくれる。それに……」
ウィルはクーラに言いながら遠くにいるウォーダンに目を向けた。未だにベルクの傍を離れていない。
「ウォーダンは戦う力もなければ、意思もない。息子を失ったんだ。このまま大人しく捕まるだろう」
クーラもまたウォーダンに目を向けた。そしてウォーダンとベルクが日中の白い光に包まれながら裏庭のテラスで楽しそうにお茶をする光景を脳裏に浮かべた。
「
言葉を紡いでいくうちにクーラは涙を流した。
不幸な運命の下にあったウォーダンとベルクに同情したこと、二人が過ごす時間が罪なき人々の命の上に成り立っていたと知りながら、そのような感情を抱いてしまった自身の軽薄さに涙が止まらなくなったのだ。
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