第28話 眼鏡の男
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「どうしてそう思うんですか?」
眼鏡の男は毅然とした態度でウィルの問いに問いで返した。
ウィルは男を観察するように目を細めた。それから大きく息を吐くと口の端を曲げた。
「あんたからは協会員特有の『匂い』を感じるからだ。何が目的だ?」
相手の正体を決めつけ、話を進めるウィル。本当のところは確証を得ていない。『匂い』も感じない。日中にウォーダンから聞いた『魔術協会』の話を思い出して男に鎌を掛けたのだ。
男は一瞬微笑むとベルクに視線を移した。
「彼をやったのはあなたですか?」
「そうだ」
話をはぐらかし続ける男は表情を戻すと威圧感を出してきた。
「やはり。外での戦いであなたの能力は群を抜いていましたからね。––––あなたこそ『魔術協会』の人間ではないのですか?」
男はこの質問でウィルの反応を窺おうとしていた。相手の正体を把握することで優位に立とうと考えたのだ。
しかしウィルには通用しなかった。
「そうだけど」
ウィルは平然と肯定した。口だけでは信じてもらえないと、ズボンの右裾を捲り、敢えて足首に括り付けた黒いブレスレットを証拠として見せた。
「ブレスレットに刻まれたそのマーク……『神の三つ
『神の三つ角』とは『魔術協会』のシンボルマークである。
正三角形の中に、三つのムフロンの
マークが金色をしているため、半分に割った三日月が先端を外側に、中央部分で重なり合っているようにも見える。
『魔術協会』の会員はこのシンボルマークがついた装飾品を身に付けている。その中でもマークが背についた黒いマントを着用している者が多かった。
「別に隠すつもりはないんだけどダサいだろ? これ。でも付けないとうるさいから腕用のものを外から見えない足に付けたんだ」
眼鏡の男はウィルの言動に呆気にとられた。同時に男の目論みは頓挫した。
「ウォーダンは『魔術協会』を見ればわかるなんて話してたけど、俺の他にもう一人いたなんて……耄碌してるんだな」
ウィルは男の心情など気にせず独り言のように感想を並べた。
男はぎこちない笑みを浮かべながら、眼鏡の位置を直すと口を開いた。
「ええ、あなたのおっしゃる通り。僕は『魔術協会』の人間です。ここへはウォーダン氏の身辺調査で来ました。いち魔術師として潜入するため『神の三つ角』の装飾品は持っていませんが」
観念した男はようやく素性を明かした。
「そうか。……ならあとのことは任せていいな」
ウィルは満足そうな顔をすると男の肩をポンと叩いた。
「ウォーダンの悪事の証拠はあそこの隠し部屋に資料で残ってる。それにウォーダンの魔力はほとんど残ってないと思うから反撃に遭うこともないだろうよ」
男に最低限の情報とダンスホール内にある隠し部屋の場所を教えると、そのままフェイとクーラのもとへ向かった。
「……え?」
ウィルの発言の意図を掴めない男は頭に疑問符を浮かべながら呆然とした。
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