第24話 決着
□
ウィルの目に首を絞められるクーラの姿が目に入った。
「クーラ!」
声は出たもののあまりに小さく掠れていた。敵の気を引くことすらできない。
クーラの苦しそうにもがく姿に焦るウィル。
「くそっ」
このまま何もできないのか––––
「いや、このまま終わらせはしない」
ウィルはベルクに鋭い目つきを向けた。
そして近くにあったシャンデリアの破片を手にした。これをベルクにぶつけて自分に注意を向けさせようと考えたのだ。
上体を半ば起こした状態で、細長いシャンデリアの破片を構えるとベルクの背に向けて投げ飛ばした。
矢のように飛んでいった破片はベルクの背に命中した。
「!?」
ウィルは唖然とした。
予想外のことが起きたからだ。
「どうして……」
四十の男が魔術で生成した水の矢を受けても傷一つつかなかった鋼鉄のように強靭なベルクの肉体を、細長い破片の鋭利な先端が貫いたのだ。
命中した背から胸部にかけてを。
魔力すら籠もっていないただの破片が。
思考は自動的に目の前の事象に向いてしまう。
だが、まだ戦いは終わっていない。確実にベルクを仕留めるまでは戦いに集中すべきだ。
ウィルは再び警戒を強くした。
しかしベルクはクーラから手を離し、ほどなくしてその場に倒れた。
□
「まさか……」
自身の左眼でホール内の様子を見ていたウォーダンはベルクの胸部が貫かれた姿に驚愕した。
そして急いで廊下からダンスホールに向かった。
「ベルク……。ベルク!」
ウォーダンは横たわるベルクを抱き寄せた。
土埃で汚れたベルクの顔。その表情は眠っているかのように穏やかだった。
ウォーダンの血の気が引いていく。そして震える手をそっと頬に添えると親指で優しく撫でた。
□
ベルクの攻撃で気を失っていたフェイは目を覚ましてすぐに戦況に目を向けた。そしてベルクが倒れていることに疑問を抱いたが、ウィルを助けようと考え直した。
「大丈夫か? ウィル」
「なんとかな」
フェイはウィルの返事を聞きながらシャンデリアを持ち上げた。その後、ウィルが自力でシャンデリアの下から抜け出し、立ち上がったのを確認すると体を元のサイズに戻した。
「もしかして死んだのか?」
フェイはウォーダンとベルクを見ながら訊ねた。
「おそらくな」
ウィルはベルクがまだ死んでいないと仮定し、やつを倒すための次の一手に意識を集中していたのだが、ウォーダンの登場により「すべて」が終わったことを悟り、警戒を解いたのだった。
「自分の左眼で様子を見ていたウォーダンが、いくらベルクが致命的な傷を負ったとしても不用意に姿を現すことはない。ここに来たってことはベルクの魂に刻まれたウォーダンの【魔術式】が消滅したのを自身で感知したからだろう」
ウィルはそう結論付けてこの戦いが終わったことをフェイに伝えた。
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