第23話 ダンスホールの戦い④
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ウィルはシャンデリアの下敷きになった。
意識を失わずに済んだのは〈
頭のどこかを切ったのか、額を伝って流れる血に左目を塞がれている。
フェイとクーラの無事を確かめたいが立ち込める土煙で状況が把握できなかった。煙を多く吸ったせいで声も出せず、下半身がシャンデリアの下敷きになっているため身動きも取れなかった。
その時、突風が吹き荒んだ。
目を閉じ、風が止むのを待ってから頭上を見上げると巨大化したフェイの姿が目に入った。
□
「おいおい、マジかよ……」
フェイはベルクがシャンデリアを落下させる光景に動揺した。その後、落下による被害を想定し自身の体を三メートルほどの大きさに変化させた。そしてクーラに被害が及ばないよう彼を嘴で咥えて急上昇した。
シャンデリアが床に激突し、ダンスホール内に轟音が鳴り響いた。
土煙が舞う中、ウィルの様子を確かめるためフェイは大きく羽ばたき突風を発生させた。煙が霧散し、ウィルの行方を探そうとした時、目前に跳躍したベルクが現れた。
不意のことに反応が遅れたフェイだったが、ベルクが攻撃に転じる前にクーラを床に投げ下ろすことはできた。
刹那、フェイの腹部にベルクの拳が撃ち込まれた。二倍ほどの体格差があるにも関わらず、フェイの体は易々と後方へ吹き飛んでいき、背後の壁に激突すると力なく落下していった。
「そんな……」
二メートルほどの高さから落とされ、うつ伏せで痛みに耐えていたクーラだったが、頭上から聞こえた轟音に顔を上げ、フェイがやられた姿を目にした。
「ウィルさんは?」
辺りは割れた地面やシャンデリアの破片、天井の瓦礫などが散乱していた。それらが障害物となり、クーラのいる位置からウィルの姿は見えなかった。立ち上がれば遠くを見渡せるが挫いた足の痛みが限界を迎え、それは叶わなかった。
クーラの心臓はダンスホールに来てからずっと早鐘を打っていた。周囲が妙に静かなせいで心臓の鼓動がうるさい。
その中に足音が紛れ込んだ。
それがウィルのものだと思ったクーラは安堵の表情を浮かべて音の方に目をやった。しかし目の前に立っていたのはベルクだった。
「あぁっ……」
尻もちをついたまま後退りするクーラから小さな悲鳴が漏れた。
ベルクはクーラの首を片手で掴むとそのまま体を持ち上げた。
クーラはベルクの拘束を解こうともがいたが、むしろ首を絞める力が強まった。意識が薄れ始め、いよいよ死ぬんだと涙が溢れてきた。
(マーチさん、ジューンさんごめんなさい……)
クーラは二人に恩返しする前に死ぬことを心中で謝ると意識を失った。
しかし体に大きな衝撃を受けたことですぐに覚醒した。
気付けば床に倒れていた。衝撃は床に落下したからだった。
クーラは大きく咳き込んだ。何が起きたのか辺りに目をやる。
目前には変わらずベルクが立っていた。
クーラは再び恐怖した。また襲われると。
しかしベルクの手が伸びることはなかった。
疑問に思ったクーラはベルクをよく観察した。
ベルクの胸部には五十センチほどの鋭利な破片が突き刺さっていた。
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