第21話 ダンスホールの戦い②
□
ダンスホールから廊下に出たウォーダンは目前に人の気配を感じた。右手の窓から月明かりが射し込む薄闇の中、目を凝らしてようやくその人物がクーラだと気付いた。
クーラは物音を立てないよう慎重に玄関ホールに向かって歩いていた。
「クーラ……」
ウォーダンが呼び止めるとクーラの体は大きく震えた。そしてゆっくりとした動作で振り返る。
「……ウォーダン様」
クーラの震えた声とひどく怯えた様子に、すべてを悟ったウォーダンは溜息をついた。
「さっきの話を聞いていたんだな」
「ぼ、僕はウィルさんが心配で追いかけたんです。盗み聞きするつもりはなかったんです。申し訳ございません。その、誰にも言いません……から……」
クーラは身の危険を感じ、慌てて釈明した。
ウォーダンは再び溜息をつく。
「クーラ、君は本当に心優しい子だ。それに君の働きにはいつも感謝している」
ウォーダンからの評価にクーラは少し安堵した。
しかし––––
「だからとても残念だよ。君がいなくなるのは」
そう言うとウォーダンは〈
不意に体が宙に浮いたクーラは小さな悲鳴を上げた。床に足をつけようともがくも、体は勝手に宙を滑るように移動していく。
「さようなら、クーラ」
そしてクーラの体はダンスホールへと滑走していった。
□
「ウィル! 部屋に入れねぇ。隠し部屋は〈防壁魔術〉の範囲から外れてやがる!」
隠し部屋へ通じる壁の前に着いたフェイは隠し扉を開けようと羽根を伸ばしたが、空を掴むばかりで壁に触ることができなかった。
「すべてお見通しってわけか」
ベルクの攻撃を回避し、時に防御するウィルの魔力と体力はゆっくりとだが確実に消耗していた。
敵の弱点を知ることができないと判断したウィルは戦法を変えるため後方へ大きく飛び上がり、ベルクと距離を取った。
その時、ダンスホールの入口ドアから人影が中に入り込んできた。
ウィルはベルクへの警戒を強めたまま、人影に目を向けた。
「クーラ!? ––––ぐふぁっっ!」
ウィルは思いもよらぬ人物の登場に動揺した。そしてその一瞬の隙を突かれ、ベルクの突進をモロに食らった。
「ウィル!」
フェイは声を上げた。
ウィルは突進された勢いで後方へ飛ばされ、壁面に激突した。
「ウィ、ウィルさん……」
ウィルが吹き飛ばされた先は入口ドアの近くだった。背中と後頭部を強く打ち付け、壁にもたれるウィルの下にクーラが駆け寄った。
「どうしてここに……」
ウィルは痛みに耐えながら訊ねた。
「ウィルさんとウォーダン様のやり取りを偶然聞いてしまって。そしたらウォーダン様がこの場所に僕を。……すみません、ウィルさん。僕はまた……」
「前も言ったが、クーラは何も悪くない。悪いのは人の命を何とも思わないウォーダンだ。だから自分を責めるな」
無能な自分が戦場に来てしまったことへの自責の念に駆られ涙ぐむクーラに、ウィルは笑みを浮かべて安心させた。
「そうだ! あのジジイに『様』なんて付けるんじゃねえ!」
二人の下に飛んできたフェイが言った。
「今は生き延びることだけを考えるんだ」
ウィルは立ち上がった。そしてベルクに向けて掌を突き出すと【魔術式】を形成した。
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