第20話 ダンスホールの戦い①

   □


 ウォーダンは後退りしながら、掌に形成していた【魔術式】をベルクに向けた。


風式魔術ウズコールガ


 そして再度発生させたかまいたちでベルクを拘束する純金でできた縄を切り裂いた。


「!?」


 ウィルとフェイはウォーダンの行動に唖然とした。ウォーダンの命を狙うベルクの解放は自殺行為に等しいからだ。


「私の息子は強い」


 ウォーダンはそう言うと背後にあるドアノブに手をかけた。

 それと同時に自由になったベルクは唸り声を上げながらウォーダンへと駆け出した。そして拳を振り下ろす。しかし拳はウォーダンの目前で止まった。攻撃の意思を失ったわけではない。証拠に力の入った拳は小刻みに震えている。


「ダンスホールに〈防壁魔術〉を展開しておいた」


 ベルクの拳は見えない壁––––〈防壁魔術〉に阻まれていたのだ。

 ウォーダンはそっとベルクの胸に手を置いた。そして添えた掌が七色に光るのと同時にベルクは背後に吹き飛んでいった。


「何をしてるんだ?」


 ウィルは彼の行為に疑問を抱き、呟いた。


「これで思う存分やれるな」


 ウォーダンはウィルの問いに答えることなく、倒れるベルクを一瞥してから廊下の奥へと消えていった。


   □


「息子に俺たちを殺させる気か。父親失格だな、あのジジイ」


 フェイは呆れて溜息を漏らした。


「〈防壁魔術〉で俺たちをここに閉じ込めたのか」


「んなことしなくても逃げないっての!」


 ウィルが冷静に状況整理する横でフェイは騒いだ。そしてこう続けた。


「だがよ、あれベルクは厄介だぜ?」


「どういうことだ?」


「あのジジイ、息子に魔力を補充しやがった」


「待て。魔力は他人に譲渡できない。それにあいつは魔術を使えないんだぞ」


「さっきは言いそびれたが、あの息子の魂にはジジイの【魔術式】が刻まれてる。だからジジイは自分の魔力で補充できるわけよ」


「魂に【魔術式】が?」


「資料を見るにジジイ本人もその仕組みはわからねえらしい。すべては偶然。しかも刻んだ【魔術式】の内容もわからないと来てる。魔術によるダメージが少ないってことは、おそらく〈強式魔術スルーズ〉に似たものなんだろうがよ」


「そんなデタラメあるのか?」


「知るかよ!」


「あいつにダメージを与えるには魂に刻まれた【魔術式】を壊すしかない……でもどうやって?」


 ウィルは答えのない問いを前にして勝機を見出せず、焦りを感じた。


「だがやるしかない」


 ウィルは覚悟を決め、ベルクに目をやった。するといつの間に起き上がったベルクが目前に迫っていた。


「お前は隠し部屋に行ってあいつの弱点を探してくれ」


「任せろ!」


 フェイは一目散にウォーダンの隠し部屋に向かって飛んだ。

 ウィルは魔力のほとんどを〈強式魔術スルーズ〉に充填し、身体能力を極限まで向上させた。そして連続で繰り出されるベルクの拳打を回避し続けた。

 反撃に出ないのは、こちらの攻撃が相手に通じないとわかり切っているためであり、フェイがベルクを倒す方法を見つけるまでの時間を稼ぐためでもあった。

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