第13話 魔術師の戦い方

   □


 銀髪の魔術師は館内に足を踏み入れると鷲掴みにしていたウィルの顔面から指を離した。

 ウィルはその場で仰向けに倒れた。すぐに反撃したかったが痛みに耐えるのがやっとだった。


「やつは異常だ……」


 ウィルはなんとか上体を起こすと、東側の廊下を西に向かって歩く銀髪の魔術師に目を向けた。


 魔術師は魔術を発動する際、自身の魔力を使い【魔術式】を形成する必要がある。

 特定の自然物に対して効果を発揮する【魔術式】を頭で思い描き、それを魔力で具現化させる。そして形成した【魔術式】に任意の量の魔力を注ぎ込み魔術の威力を決める。


 魔力は体内に存在する。体外へ放出されるのは【魔術式】を形成し魔術を発動している時のみ。その時、魔力は七色に光る。


 そして魔術師は基本、〈強式魔術スルーズ〉の【魔術式】を常に発動した状態で戦闘を行なう。

 この魔術で得られる効果は肉体強化である。

 人間もまた自然物。

 運動能力を極限まで高め、戦闘力や防御力を上げる。

 魔術師同士の戦いにおいて、相手の肉体のどこかに刻まれた〈強式魔術スルーズ〉の【魔術式】を消滅させることが必勝に繋がる。


「俺たちの魔術をモロに受けてもなお消せない〈強式魔術スルーズ〉の【魔術式】……」


 〈強式魔術スルーズ〉の【魔術式】を消滅させるには〈強式魔術スルーズ〉に込められた魔力と同等の魔力量の魔術をぶつけるか、または相手の魔力を完全消費させる必要がある。

 

 魔力量には限度がある。

 魔術を使用した分だけ魔力は消費される。

 魔力が尽きれば魔術は使えない。

 魔力は体力のように回復するが、そこにかかる時間には個人差がある。


 常に発動された状態の〈強式魔術スルーズ〉だが、発動に必要な魔力を体内で循環させているため発動のみであれば魔力は消費されない。

 魔術によるダメージを負った分だけ魔力が消費される仕組みになっている。


 銀髪の魔術師は四十の男の〈水式魔術エルド〉、太った男の〈風式魔術ウズコールガ〉を纏った肉弾攻撃、眼鏡の男の〈火式魔術スルト〉、そしてウィルの体術を受けて、〈強式魔術スルーズ〉に使用される魔力を概ね消費しているはずである。

 消費した分の魔力を補充するかは魔術師次第だが、補充するのがセオリー。

 当然、銀髪の魔術師も自身の〈強式魔術スルーズ〉に魔力を補充しているはず。

 それも何度も。

 魔力量は確実に減っているはず。


 なのに––––


「やつの〈強式魔術スルーズ〉を削っている感覚が希薄なのはなぜだ? 〈強式魔術スルーズ〉発動状態での体術にも魔力が籠っている。俺の攻撃はしっかりやつに命中した……。やつの魔力量はどうなってる?」


 ウィルは銀髪の魔術師に対して不可解な違和感を抱いた。同時にこの違和感をはっきりさせることが勝機に繋がるのではないかと考えた。

 

 そのためにはやつと戦い続ける必要がある。

 

 ウィルはゆっくりと立ち上がった。

 後頭部に強い痛みが走る。


「くそっ……」


 ウィルは自身の〈強式魔術スルーズ〉に魔力を注ぎ込んだ。銀髪の魔術師に削がれた分に加えて後頭部を治癒する分を。

 〈強式魔術スルーズ〉で得られる効果の中に人間が持つ自然治癒力の増幅がある。

 魔力が補充された〈強式魔術スルーズ〉の効果により、館の外壁に強く打ち付けられた後頭部の傷からの出血が止まり、傷口が塞がっていく。そして元から負傷していなかったかのように綺麗になった後頭部から痛みが完全に消えた。

 ボロボロになった黒い上着を脱ぎ、黒い半袖のインナーシャツになったウィルは戦闘態勢を整え、銀髪の魔術師に向かって駆け出した。

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