第14話 圧倒的な力
□
ウィルは銀髪の魔術師を追って東の廊下を西へ走った。そして玄関ホールでその背後を捉え、魔術を発動するため腕を伸ばした。
不意打ちを狙ったつもりが【魔術式】を形成する前に、銀髪の魔術師に気配を感じ取られ、振り返り様に勢いよく拳を振り下ろされた。
拳は床を割った。
ギリギリで回避したウィルは体勢を崩しながらも形成した【魔術式】を銀髪の魔術師に向けた。
〈
【魔術式】から放出された雷は銀髪の魔術師に命中した。
銀髪の魔術師はその場で動きを止め、小刻みに震える。それでも無理矢理に体を動かし反撃しようとする銀髪の魔術師の動きを完全に止めようと、ウィルは〈
「俺の魔力が尽きるのか先か、お前の魔力を使い果せるのが先か……」
連続で放出される雷電攻撃に、銀髪の魔術師が吠えた。
その様子にウィルは驚く。
そしてウィルは銀髪の魔術師に対して抱いた違和感の正体に気付き始めた。
しかしその僅かな思考時間があだとなり、銀髪の魔術師の反撃を受けてしまった。
【魔術式】を展開する右腕を掴まれると玄関ホールの入口の大きなドアまで投げ飛ばされた。ドアに背中を打ち付けたウィルは体勢を立て直そうとするも、馬乗りになってきた銀髪の魔術師に阻まれ、重たい拳を顔面に食らった。
何度も。
何度も。
魔術を発動しようにも【魔術式】を形成する思考ができない。
一方的に殴られるウィルの意識も〈
(俺の尺度で測ったのが間違いだった……)
銀髪の魔術師の力は、四十の男との戦いで理解していた。太った男と眼鏡の男が立て続けにやられたことで、本気でやらなけらば確実にこちらがやられることも理解し、覚悟して戦いに挑んだ。それでも為す術なく窮地に追い込まれ、手段を選ぶ権利すら与えられないのだと背後から攻撃する卑怯な手も使った。
しかしそれだけでは足りなかった。
足りない以前に、そもそもやつに対して『戦う』という選択すら取るべきではなかったのかもしれない。
そう思ってしまうほど、自分とやつとの間にはっきりとした力の差を、格の違いを見てしまった。
(……初めからフェイを連れてくるんだった)
ウィルはウォーダンとの話を思い出した。
ウォーダンはその話の中で「用心棒の中で死者も出ている」と言っていた。
おそらく正確に言えば「死者しか出ていない」が正しいのだろう。
高額報酬で用心棒を雇う館の老人––––
そんな風変わりな依頼が広まらないわけがない。
それなのに集まった用心棒はウィルを除いて三名。
彼らとてどこかで聞いた嘘のような噂話を半ば疑いながらこの館のドアを叩いたのか、あるいはウォーダン自身が彼らを雇ったのか。
真意のほどは定かでないが、ウォーダンが嘘つきなのは明白だ。
すでに自身に火の粉が降りかかっている状況。
ウィルが反撃のための準備を始めようとした時、銀髪の魔術師の手が止まった。
不意のことに虚をつかれるウィル。
やつはゆっくりと後ろを振り返った。
ウィルも銀髪の魔術師が向ける視線の先に目をやった。
そこにはクーラが立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます