第1話 一人と一羽
「なあウィル。俺たち、町を離れてから歩き続けて2日経つぞ。まともに飯も食えず、だ。これ以上歩き続けたら本当に空腹で死んじまう」
「次の町まであと半日くらいだ。もう少し我慢してくれ、フェイ」
「我慢できない! できるわけがない! それくらいわかるだろ!」
林道を歩く一人の男––––ウィルことウィリアム・レイマグナと彼の頭上を飛ぶ鷹に似た黒い鳥––––フェイことフェルニルの会話には温度差があった。
空腹に耐えかねたフェイは文句を吐きながら羽をばたつかせるが、ウィルはまったく相手にせず歩くことに集中していた。
ウィルも空腹だった。道中で木の実や野草を食べていたが、空腹を十分に満たせるわけもなく気を抜けばお腹が鳴った。その音を聞くたびにフェイは「意地を張るな! 何か食わせろ!」と騒いだ。
ウィルは上下黒の服に身を包み、その上から防寒用のカーキ色のマントを羽織っていた。肩からは中身が空っぽのカバンを下げている。時折、腰に下げた水筒を手に取り、水分補給をしたがやはり腹の足しにはならず、その水も無くなりそうだった。
フェイは飛ぶのにも疲れ、ウィルの頭の上に乗るとウィルの金髪を鉤爪でくしゃくしゃにした。
ウィルのアシンメトリーの前髪が歩くたびに揺れて、長さのある右側は目を隠していた。
「やっぱりケチらないで馬車を手配すれば良かったんだ。そうすれば今頃、次の町で腹いっぱい食ってたってのによぉ」
フェイが頭上で騒ぐと、ウィルは視線を少し上げた。
「資金が尽きそうなんだ。馬車を借りて早く町に着いたとしても飯を食う金がない」
「それならまた金を送って貰えばいいだろう!」
「……師匠に連絡したくないんだ」
「なんだ? お前ビビってるのか? あんな長髪ヒゲ野郎なんて俺は怖くないぜ」
フェイは再び飛び上がり、ウィルの前に降り立つと得意げな顔を見せた。ウィルはその顔を一瞥して話を続けた。
「そんなんじゃなくて––––」
ウィルがそう言いかけた時、遠くから微かに悲鳴が聞こえた。二人は互いに見合う。
「余計なことは考えるな」
フェイはウィルが次に取る行動を予測し嫌そうにした。
案の定、ウィルは声が聞こえた方へ向かって駆け出し、森の中へ入っていった。
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