第11話 3対1
□
「あの距離から落ちたら死ぬぞ!」
眼鏡の男が叫んだ。
それと同時に四十の男の体ほどの面積を持った地面が、男の下方から迫り上がった。耕した土のように柔らかいその地面は男の体を無傷で受け止めた。
その光景に唖然とした眼鏡の男と太った男は迫り上がった地面の先まで伸びる七色の線を目でなぞった。その先には片膝をついて形成した〈
「何してる! やつが館に向かってるぞ!」
ウィルは叫んだ。
二人は銀髪の魔術師に向き直る。そして太った男は【魔術式】を形成した。
〈
太った男は背中を丸め、頭と手足を体の中心に仕舞うように折り曲げた。元々風船のように丸々とした体が完全に球体を模した。そして彼の魔術により操作・増幅された風の力により推進力を得た
銀髪の魔術師は目の端で自身に突撃してくる球体を捉えると瞬時に立ち止まり腰を落とした。そしてそのまま太った男を物怖じせず受け止めた。
太った男は銀髪の魔術師に致命的なダメージを与えるべく回転数を上げた。
銀髪の魔術師は回転する太った男の体を鷲掴む両手に力を加え続けた。
そして太った男の回転が止まった。
「ぎゃゃあぁぁぁ!!」
太った男は悲鳴を上げた。それと共に銀髪の魔術師に掴まれた圧により太った男の骨が折れる音が鳴り響いた。
〈
太った男の背後から掌に【魔術式】を形成した眼鏡の男が姿を現し、銀髪の魔術師の顔面に向けて【魔術式】から火柱のように炎を放出した。絶えず【魔術式】から放出される炎に銀髪の魔術師は太った男から手を離す。
太った男が銀髪の魔術師に突撃したのと同時に現場に駆け出していたウィルはその瞬間を見逃さず、負傷した彼を助けるため、低い姿勢から銀髪の魔術師の腹部に蹴りを入れた。
「やつを取り押さえる! そのまま森の方まで飛ばしてくれ!」
ウィルは太った男を銀髪の魔術師から引き離すと、炎を放出し続ける眼鏡の男に言った。銀髪の魔術師を炎の勢いで森まで後退させ、自身の魔術で樹木を操作し拘束しようと考えたのだ。
しかしその考え通りにはいかなかった。
銀髪の魔術師はウィルの想像を遥かに超える瞬発力と強靭さを備えていた。
ウィルが眼鏡の男に命令した次の瞬間には、すでに銀髪の魔術師は体勢を立て直していた。そして眼鏡の男との距離を一瞬で詰めると彼の顔面に拳を打ち込んだ。眼鏡の男は背後へ吹き飛び、二百メートルほど先の館の壁面に激突した。
その光景を目にしたウィルは銀髪の魔術師と距離を取るため背後へ大きく跳ぼうとした。しかしその前に銀髪の魔術師が眼前に現れ、顔面を鷲掴まれた。身長一七〇センチほどのウィルの体が易々と持ち上げられる。
銀髪の魔術師はそのまま館に向かって駆け出した。
(このままじゃ館に入られる)
ウィルは抵抗したが拘束を解くことができなかった。
館の前まで到着した銀髪の魔術師はウィルの後頭部を壁面に叩きつけた。
崩れていく壁面。
ウィルは気絶しそうになるのを必死に堪えた。
銀髪の魔術師は館内部へと足を踏み込む。
用心棒四人の力は銀髪の魔術師にいとも容易くねじ伏せられ、交戦から十分足らずで館内部への侵入を許してしまった。
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