第9話 疑惑のウォーダン
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魔術師たちはウォーダンの依頼内容に腑に落ちない点があるものの、これ以上質問しても無視されると分かりきっていたため、報酬のことだけを考えることにしてダイニングを後にした。
ウィルは一人その場に残り、未だ自席に座っているウォーダンに声をかけた。
「クーラたちは安全な場所に隠れてるんですよね?」
ウォーダンはその問いかけにテーブルに伏せていた目をウィルに向けた。
「問題ない。館の奥の部屋にいる。それに私の〈防壁魔術〉も施してある」
「あなたの〈防壁魔術〉なら安心だ」
ウィルは笑みを浮かべた。
「あなたも同じ場所に隠れるんですか?」
「私は自室にて待機する」
「そうですか。それではクーラたちに危害が及ばないよう仕事をしてきます」
ウィルは笑みを浮かべたままダイニングを後にした。
□
「おかしいと思わねえか?」
自室に戻り、ベッドに座ったウィルにフェイは訊ねた。
ウォーダンから依頼内容が告げられている間、フェイはウィルが羽織る黒色の上着の胸ポケットに入っていた。
フェイは自身の体の大きさを自在に変化できる能力を持っている。通常、三十センチほどの体長を五センチ以下にしてひそかに話を聞いていたのだ。
「確かにゲームみたいだ」
フェイに同意するウィル。
「襲撃時期が決まっているだけでなく時間まで……。しかも制限時間を過ぎるとこの場に留まることを禁止するなんて、何か隠してるとしか思えない」
ウィルはウォーダンの話を思い出しながら、彼に対して不信感を募らせていった。
「それにあの巨大な魔獣を館周囲に寄せつけない〈防壁魔術〉を形成するほどの実力を持つウォーダンが自分の身を守るために魔術師を雇うのか? それくらい自分でできるはず」
「俺が入れたのは魔物として小物すぎるからだろうな」
フェイは自身の解釈を口にする。
「ある程度の魔力を持った魔獣に対する防壁を強化するための処置なんだろう」
「よっしゃ! それじゃあ俺があのジジイの化けの皮を剥がしてやる!」
フェイは声を上げた。
「お前が襲撃者と戦ってる間に館を調べて隠し事を暴いてやるぜぇ!」
「ダメだ」
テンションを上げるフェイに対して、ウィルは冷静に嗜めた。
「はぁ!?」
「ウォーダンの意図が何にせよ、それが俺たちに対して決定的な危害にならない限りは放っておく。お前にはクーラたちが隠れた場所を見つけ出し、万が一に備えて彼らの傍にいてもらう」
「だーかーらー、俺はあんな人間たちなんてどうでも良いんだよ! それよりも俺はあのジジイの秘密に興味がある! わかるだろ! 人命より真実だ! 知識だ!」
フェイは文句を並べる。
「ダメだ。俺がここにいる理由はウォーダンのためじゃない。クーラたちの命を守ることだ。だから協力してくれ。俺たちは持ちつ持たれつの関係だろ?」
ウィルはニヤリとした。
その表情を見てフェイは怪訝な面持ちをしたが、それからすぐに深い溜息を吐き出して観念した。
「わかったよ。今回はお前に従う。だがな! 次は俺に従えよ!」
フェイは目を釣り上げると羽を器用に折り曲げて人間で言うところの人差し指で人を指す仕草をした。
「わかったよ」
ウィルは微笑しながら同意した。
「そろそろ時間か……」
ウィルは立ち上がり、自室のドアに向かった。
「フェイ、頼んだぞ」
部屋を出る前に、背後を振り返りフェイを見た。
「任せろ!」
フェイは羽を指に見立てて親指を立てるようにした。
ウィルは笑みを浮かべて部屋を後にした。
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