第7話 やむを得ない選択
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「ああっ、大変だわっ!!」
館の外からマーチの声が聞こえた。
再度用意されたコーヒーを飲んでいたウィルはダイニングから玄関を通って外に出ると森の西側まで伸びる砂道に目をやるマーチを見つけた。
「何かあったんですか?」
ウィルが訊ねると「それが……」と動揺しているのか口籠るマーチ。
「大きな声が聞こえたがどうした?」
ウォーダンが館内から現れると、マーチは彼に駆け寄った。
「ウォーダン様、馬車が……。急に馬車が行ってしまって……。呼び止めようとしたのですが声も届かず……」
「待つことに痺れを切らしたのか、あの御者め」
ウォーダンは語気を強めて言った。
「とりあえず中に入りなさい。対応は考える」
すぐに笑みを湛えるとマーチの背に優しく手を添え、彼女を館へ誘導した。
「今から新たに馬車を手配しても夜には間に合わないか……」
ウォーダンは町の方角を見ながら呟いた。
二人のやり取りを見ていたウィルの頭にフェイが降り立った。
「お前の考えてることはわかってるぞ。だがやめとけ……」
フェイが声を顰めてウィルに忠告した。しかしウィルの脳裏には、今夜館に残らざるを得ないクーラたちに危険が及ぶ想像しかなく、フェイの声は届いていなかった。
「わかりました。俺も用心棒として護衛に加わります」
対応を思案し難しい顔をしていたウォーダンの顔がパッと晴れた。
「それは良い考えだ。ありがとう。これならマーチたちの危険も回避できるだろう」
ウォーダンは笑みを浮かべたまま話を続けた。
「それでは二階に部屋を用意させる。仕事の詳細はあとで説明するからそれまでゆっくり休んでいてくれ」
□
用意された部屋は簡素なものだった。
入口のドアから向かって左側の壁に沿うようにして置かれた一人用のベッド。その横に机とイス。入口の近くに小さめのクローゼットがあるだけの手狭な部屋で、良い点があるとすればドアの向かい側にある大きな窓からの日当たりだろう。今日は天気が良く雲一つないので陽光が室内を照らしていた。
ウィルは乱雑に荷物を床に置くとベッドに腰掛けた。
「おい、なんで用心棒なんて引き受けたんだよ」
フェイは机の上で抗議した。
「クーラたちに危険が及ぶだろ」
「そんなの俺たちに関係ないだろ! たまたま魔獣に襲われたのを助けただけの他人だぜ? そいつの命がどうなろうとどうだって良いじゃねえか」
「助けられる命は助ける」
「あの
「俺がそうしたいんだよ」
ウィルの言葉に溜息をつくフェイ。
「こうなるって分かってたがよ、おそらくあのウォーダンってジジイもそうだぜ? あいつは信用しない方が良い」
「どう言うことだ?」
「無人のまま馬車を行かせたのはあのジジイだ。満腹になって屋根の上で休んでたら、あのジジイが御者に金を握らせて指示してたところを見たんだ。……どんな手を使ってでもお前を用心棒として雇いたかったんだろうよ。お前はジジイの思惑にまんまと嵌まったわけだ」
「……過程はどうにせよ。クーラたちが危険なのは変わらない。俺の選択も変わらなかったと思うぞ」
フェイの話を聞いたウィルは、ウォーダンに不信感を抱いたものの、むしろ清々しい顔をしてあっけらかんとした。
「ウォーダンのじいさんが良い奴だろうが悪い奴だろうが関係ない。それに降りかかる火の粉は払えばいい。そうだろ?」
そう言ってウィルは背筋を伸ばし、ベッドに横になった。
「少し眠る」
ウィルは目を瞑るとすぐに眠りについた。
フェイはその様子に肩を竦めた。
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