第6話 銀髪の魔術師
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「用心棒?」
ウィルが訊ねるのと同時に、ジューンがパンとスープを運んできた。
ウォーダンはウィルに食べるように勧めた。
久しぶりの温かい食事に心も体も温まる。ウィルが軽い感動を味わっている足元でフェイは食事にがっついていた。そして空になった皿を両翼で器用に持ち上げてジューンに無言のおかわりを要求した。
ウォーダンは用意されたコーヒーを飲んだ。それから先程のウィルの問いに対する話を始めた。
「私は今、ある魔術師から命を狙われている。やつは決まって半年に一度ここに現れる」
「半年に一度? 命を狙っている割には悠長だな」
ウィルはウォーダンの話を聞いて独り言のように呟いた。
「やつにも何か意図があるのだろうが判明していない。とにかくやつが現れる期間に用心棒として魔術師を数名雇っている。そこでだ……」
ウォーダンは神妙な面持ちでウィルを見つめた。
「例の魔術師が来るのが今宵。そこに大型の魔獣を倒せるほどの実力を持つ君が現れた。これも何かの縁。君の力を見込んでお願いしたい。君を用心棒として雇わせてはくれないか? 報酬ははずむし、今日一日だけで構わない」
そう言うとウォーダンは頭を下げた。
ウィルは彼の後頭部に目を向けた。それから少しの間を空けてから返答した。
「お断りします」
ウィルの中ですでに回答は決まっていた。しかし食事を提供してくれた人物に対して即答するのは無礼だと思い、考えるふりをするために少しの間を作ったのだ。
ウォーダンはゆっくりと顔を上げた。
「急ぎの用があると言うことかな」
「俺たちはある物を探してずっと旅をしています。その足を止めるわけにはいかない。……それにこの手の事件なら魔術協会に依頼するのが良いのでは?」
「やつらは信用ならん!」
魔術協会の名を聞いたウォーダンの態度が急変し、彼は声を荒げた。
ウィルはその様子に驚いたが、同時に何故そこまで毛嫌いするのか疑問に思った。
「いや、すまない。突然大声を出して」
ウォーダンはすぐさま落ち着きを取り戻した。
「至極個人的なことなのだが、彼らとは関わらないと決めていてね。クーラを助けてくれたとはいえ君が仮に協会員だったら館に招かなかっただろう。私にはわかるのだ。いくら正体を隠そうと『匂い』でな……」
それから少しの沈黙が流れた。
ウィルは館の前に停まっていた馬車を思い出した。
「殺し屋が現れる前にクーラたちをあの馬車で近くの町に避難させるんですね」
「そうだ。彼らを危険に晒すわけにはいかないからな。やつが来るタイミングがわかっているからできることだが……」
ウォーダンの表情が次第に深刻になっていく。
「やつは本当に強い。化け物だ。正直な話、雇った用心棒の中で死者も出ている。初めてやつに襲われた時のことは今でも覚えている。月光に照らされた銀の髪色……」
「命が狙われているが分かっているのなら、ここから逃げるべきでは?」
「……そう簡単な話ではないのだ」
それから暫くの間、ウォーダンは黙った。
ウィルも特段話すこともないのでコーヒーを飲みながら窓の外を眺めていた。いつの間にかフェイがいなくなっていた。
コーヒーも飲み終わり、館を後にしようと思ったのと同時にウォーダンが立ち上がった。
「すまないが少し失礼するよ。君はもう少しここで休んでいると良い。ジューンに旅路に必要な食料を用意させる」
そう言ってウォーダンはダイニングを後にした。
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