第5話 用心棒
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館に入る前にウィルとウォーダンは互いに自己紹介を軽く済ませると「詳しい話は中でゆっくりしよう」とウォーダンが館の入口のドアを開けた。
ドアの先はとても広い玄関ホールで、二階まで吹き抜けた天井には大きなシャンデリアが吊り下がっていた。ドア正面には大階段があり、中段辺りで左右に別れている。その大階段の両脇にはそれぞれ部屋があった。入口のドアを背にして玄関ホールの左右にそれぞれ廊下が伸びていた。
ウィルの頭上で羽を休めていたフェイは声が出そうになるのを抑えながら、豪華な作りの内装を興奮気味に見回していた。
「ダイニングはこっちだ」
ウォーダンは玄関ホールの右手にある廊下を指した。
「あり物になってしまうがすぐに何か用意させる」
ウォーダンはそう言うと後から館に入ってきたメイドの一人––––ジューンに食事の用意を指示した。ジューンは「かしこまりました」と即座にダイニングへ続く廊下を進んでいった。
「クーラ、大丈夫か?」
ウィルはもう一人のメイドに肩を借りるクーラを心配した。
「これくらい大丈夫ですよ。それよりも、この子を助けていただき本当にありがとうございます」
クーラが答える前にメイドが答えて頭を下げた。
「この子は何かとおっちょこちょいだから逃げようとして足を挫いたのでしょう」
「ちょっとマーチさん! 子供扱いはもうやめてくれよ」
クーラは恥ずかしそうに慌てて言った。
何だか親子のやりとりを見ているようだとウィルは微笑んだ。
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ダイニングへ続く廊下の右手の壁には窓が嵌められており館正面の景色を見渡せた。左手にはいくつかの部屋が並び、ダイニングはこの廊下の突き当たりにあった。
ダイニングの中央には二十名ほどが座れる長テーブルとイスが並んでいた。テーブルと並行に大きな暖炉が設置され、その上には風景画が飾られている。室内の奥にあるドアの先が厨房になっているようでまな板の上で包丁を叩く小気味良い音が微かに聞こえた。
ウォーダンは長テーブルの短辺に座り、ウィルを自身の近くの席に座るよう誘導した。そこが彼の専用席なのだろう。
「ほとんどの家具は前の住人が残していった物だ。私にはすべてが大きすぎて、初めてここに来た時は困惑したものだ」
ウォーダンは少し遠い目をして言った。
「四人しか住んでいない今も持て余しているのは変わらないがな」
ウィルはその言葉に疑問を抱いた。
何故ならこの館内にはウォーダンの言った人数よりも多くの気配があったからだ。
「ご家族がいるんじゃないんですか?」
ウィルは疑問を解消すべく遠回しな質問をした。
するとウォーダンの表情に翳りが見られた。
「私には妻と一人息子がいたが、だいぶ前に亡くなってしまった。妻は三十年前に流行病で、息子もその五年後に同じ病でな……」
「それは悪いことを聞きました」
ウィルは真剣な眼差しをウォーダンに向けた。
「もう昔の話だ。気にすることではない」
ウォーダンは微笑んだ。それからすぐに「そう言うことか」と納得の声を上げた。先ほどのウィルの質問が意図することを悟ったのだ。
「君は本当に凄いな。本物の実力者だ。私がこれまで見てきた誰よりも」
ウォーダンはウィルの研ぎ澄まされた感覚に感心した。
「たしかにここに住んでいるのは私を含めた使用人たちの四人だが、現在館内にはあと三人の人間がいる」
ウォーダンは天井を見上げるとすぐに目線をウィルに戻して話を続けた。
「彼らはすべて魔術師だ。私の用心棒のな」
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