第3話 使用人クーラ・ユベントス

   □


「いいか? 俺はカラスじゃない。この体は魔獣だ。だが心は違う。魔獣というのは人間以外で魔力を持つ生物を指すわけだが、やつらは魔力を欲しがり人を襲い食う。その点、俺は違う。俺は人を襲わないし食いたいとも思わない。俺はあんなやつらよりも高貴な存在なんだ。高貴な心の持ち主なんだな。だから––––」


「それくらいにしろ」


 魔獣に襲われ、右足を挫いた青年を手当てしていたウィルは、五分以上話し続けるフェイのクチバシを掴んで強制的に黙らせた。

 フェイの話を黙って聞いていた青年はウィルに向き直り深々と頭を下げた。


「この度は危ないところを助けていただき本当にありがとうございます。僕の名前はクーラ・ユベントスと言います。この森を抜けた先にある館で使用人をしています」


 青年は感謝の言葉とともに自己紹介をした。


「俺はウィリアム・レイマグマ。ウィルでいいよ。こいつはフェルニル」


「フェイと呼んでくれ!」


 青年––––クーラは安堵の表情を浮かべた。それは魔獣を倒した彼らの正体を少しだけ知ることができたからだった。


「ウィル様にフェイくん……」


「なんで俺には『様』をつけないんだよ!」


「君は魔術師様の使いだろう? 人語を話せるのも魔術師様の魔術のおかげじゃないのかい?」


「違う! 魔術はそんなに便利なものじゃない」


 フェイは声を荒げた。


「そうなの?」


 クーラは不可解そうな顔をした。


「魔術は簡単に言うと自然界にあるものを操作、増幅するものなんだ」


 二人の話を聞いていたウィルが説明した。


「そうなんですね」


 クーラは納得したように頷いた。


「あと『様』はいらない。ウィルでいいよ」


「は、はい」


 二人の話を聞いていたフェイは終始不機嫌だった。そして「魔術師に『様』をつけるなんて変わったやつだぜ」と悪態をついた。


「これは敬意を表してのことだ」


「それなら俺にも表せ! なんで俺には敬語を使わないんだよ!」


 フェイの言葉にクーラは少し考えて「鳥だから?」と返した。


「だ・か・ら! 鳥じゃないって言ってんだよ!」


「もう良いだろ」


 ウィルは呆れながら、興奮するフェイを制止した。


   □


「なんでこんなところにいたんだ?」


 話が一区切りついたところで、ウィルはクーラに訊ねた。


「薪を集めていました。そうしたら急に魔獣が現れて……。最近ここらで巨大な魔獣が出没することは知っていましたが、まさか出くわすなんて……」


「あんなデカい魔獣がいるのに『魔術協会』は駆除にも来ないのか」


 フェイは肩を竦めてうんざりした。


「それは多分、館の主人であるウォーダン様が原因だろうね。人嫌いなウォーダン様は館の周囲の土地を買い占めて人の立ち入りを禁じているから」


「変わったやつだな」

 

「とりあえずクーラをその館まで運ぶ」


 ウィルは怪我の具合からクーラが一人で歩けないと判断し提案した。

 クーラも足の痛みが我慢できるものではなかったので、ウィルの好意に甘えることにした。


「館に着いたらお礼をさせてください」


「だから気にしなくていいって」


 ウィルはクーラの前で背を向けてしゃがみながら言った。


「何言ってんだよ! 俺たちは数日空腹状態だ! 何か食わせてもらうくらい良いだろ!」


 フェイが不満の声を上げる。


「それじゃあ館に着いたら食事にしよう」


 クーラはフェイに向かって言った。

 フェイは「やった!!」と羽をばたつかせ、急上昇する。


「ウィルさんもお気になさらず召し上がってくださいね」


 クーラは笑みを浮かべた。


「ありがとう」


 ウィルは微笑んで感謝を述べた。

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