第5話 初めての天国

 それは嵐だった。

 四つの馬車達には、貴重な魔導鉱石、ミスリルやダマスカスといった貴重金属を運ぶキャラバンを百人は下らない武装した山賊達が囲んだ。

 四つの馬車達には、腕利きで信用がおける冒険者が五人一組、四組…馬車の一つずつに配備している。

 20名の腕利き冒険者の五倍以上の山賊の軍団によって包囲された。


 馬車護衛にいるドリン、レリス、ムラマサ、ルディリ。

 圧倒的な数の山賊軍団に絶望を直感したが、突如、襲いかかろうとする山賊達が吹き飛んだ。

 全身に紫電を纏って吹き飛ぶ山賊達。


 ルディリの目の前に、ルディリの魔力…マナ感知で、二メートルの巨大な何かが過ぎったのを感じるも、全く見えない。

 視認できないが、マナ感知が存在を知らせる。

 そのマナ感知が知らせる存在が、あっという間に二十人を撃破した。

 紫電を纏って吹き飛ぶ山賊達。


 山賊達を倒しているのはネオデウス1982号305番だ。

 左手に電磁ブラスター砲、右腕に雷撃ソードを持って、山賊達を薙ぎ払う。

 山賊達は、視認できないステルスモードのネオデウス1982号305番を感知しているようだ。

 ネオデウス1982号305番は、恒星間の戦争の時に、何らかの感覚器官で、ステルスモードでも察知できる民族がいたのを思い返す。

 だが、障害ではない。

 二メートル半の戦術装甲に身を包むネオデウス1982号305番にとっては、ハエを落とすより簡単な作業だ。


 馬車のキャラバンを襲った連中を犯罪者と認定してネオデウス1982号305番は制圧をした。

 僅か一分半で、百人いた様々な種族の山賊達が気絶させられて転がる。


 馬車のキャラバンの者達は、何が起こったのか?…理解できなかった。

 そして、ステルスモードを解除した装甲巨人のネオデウス1982号305番が姿を見せる。


 キャラバンの戦闘にいるネオデウス1982号305番が歩み寄ってくる。

 そこへ、ドリン、レリス、ムラマサ、ルディリの四人が近づき


「アンタが…助けてくれたのか?」

と、ドリンが尋ねる。


 ネオデウス1982号305番は

「llaksri kksiirauy awararaua karuu」


『え?』と四人は困惑した顔をする。


 ネオデウス1982号305番が言語翻訳スイッチを入れ

「ああ、現状、報告、必要」


『はぁ?』と四人は戸惑う。


 1982号305番は頭を抱える。

 全く言語が通じていない。ならば…。

「手、借用、必要」


 ルディリが

「手を貸して欲しいの?」

と、手を伸ばすと、それを1982号305番は握る。

 そして、1982号305番は、自分と融合しているナノマシンシステムをルディリに入れる。


 突然、ルディリの視界が目まぐるしく回転する。

「え! 何?」


 ルディリに入ったナノマシンは、急速にルディリの脳内へ入り、言語を調査、1982号305番に転送、1982号305番は言語統一を行った。

「はぁ…良かった。知識がある者のお陰で素早く言語を取得できた」

と、1982号305番は頭部のヘルメットを解除して素顔を見せる。

 人間の顔に、四人はホッとして、ムラマサが

「アンタ…人族なんだね」


 1982号305番が

「人族とは人間の事を示すのか?」


 レリスが

「人間は、私達、みんなの事を示すんですよ」


 1982号305番は申し訳ない顔をする。

「ああ…そうか…すまなかった」

 そう、この世界は様々な人とは違う形状の種族が入り交じった世界だ。その種族達が共に暮らしているのだから…その者達は全員が人間であるのは間違いない。


 1982号305番は

「現状の説明を求める」


 その後、現状の報告を受けた1982号305番は、雷撃によって気絶した山賊達の数名に脳内情報探査のナノマシンを打ち込み情報を抜き取る。

 その間、キャラバン達で

「まさか…裏切り者が…」

「いや、そんな、信用がある仲間を」

「だが…」

 キャラバンと冒険者達の間に不穏な空気が流れているそこへ1982号305番が来て


「一つ…山賊達の脳内情報を抜き取って分かった事だが。どうやら、かなりの日数を掛けて、このキャラバンが移動する日付の内偵をしていたらしい」


 キャラバンの者達が

「裏切りとかは…」


 1982号305番は首を横の振り

「無い。この山賊達の中にも様々な形で、鉱山に入り…キャラバンがどういう時に運搬を行うのか…調べていたらしい」


「そんな…」とキャラバンの者達は絶望していると、1982号305番が

「解決する方法はある」


「え!」と全員が1982号305番に視線を集中させる。


 1982号305番が

「この山賊達の本丸が、どうやら…近くにあるらしい。そこを襲撃して残りの山賊達を捕まえれば…解決できる。そして、そういう事をすれば必ず捕まるという抑止にもなる」


 キャラバンのボスが

「出来るんですか?」


 1982号305番が「私一人では…」とルディリやムラマサ、レリス、ドリンを見て「人手がいる協力してくれるか?」


 四人は戸惑っているとキャラバンのボスが

「もし、山賊を全員捕まえてくれるなら、報酬は弾みます」


「イエス!」と四人は快く協力してくれた。


 その後、ネオデウスの装備、遠距離雷撃砲をルディリとレリスに託し、1982号305番と剣術、棒術が使えるムラマサにドリンの二人に三十センチの小型攻撃無人機達を与え、残り100名の山賊がいる本丸の古城跡へ突入、見事、山賊の軍団を退治して、全員がお縄に付き、国境警備隊に回収された。


 その時、ドリンが

「アンタの名は?」


 1982号305番は

「ネオデウス1982号305番だ」


 四人は渋い顔をする。数字の名前ってどんな種族だ。

 まあ、体から武器が生えるから人族ではないのは間違いないし、今までそんな種族と会った事がない。


 ドリンが

「じゃあ、その…ネオデウスなんちゃかんちゃらのネオデウスのネオを取って、ネオで」


 1982号305番は頷き

「構わない」


 ネオと命名された1982号305番と共に、山賊の軍団を討ち取った後、巨大な宝箱に山盛りの金貨の報酬が五人の前に置かれた。

 城塞都市ラドリアの警備隊本部で、五人は莫大な報酬の金貨を前に目が…1982号305番以外、飛び出していた。

 警備隊の本部長が

「今回は、本当にありがとうございます。報酬です。それと…」

と、本部長は1982号305番を見て

「今後とも、ご協力をお願いしたい」


 1982号305番は渋い顔で

「まあ、まだ…ここに来たばかりなので…色々と見てみます」


 

 金貨山盛りの宝箱を前にルディリが手を伸ばして近づくが、ドリンが

「止めろ。オレ達は…ネオの後ろで補助しただけだ」


 そう、山賊の軍団を倒す装備も、大多数も倒したのも1982号305番だ。

 四人は補助でしかない。

 だが、1982号305番は

「軍隊は、作戦を行った全員が責任を持つ。だから、成功した成果は、作戦を共に行った全員に配る。五等分にしましょう」


 それを聞いて

「やったーーーーーーー」と四人が大声を上げて喜んだ。


 という事で、金貨三千枚が一人づつ配られた。日本円で、三千万円を一人一人が手にした。

 そして、割り切れかなった余りの金貨千枚で、ドンチャン騒ぎを始めた。

 まず、獅子食亭を貸し切り、今回のキャラバン護衛の皆を集めて飲み食いする。


 1982号305番は来たばかりなので、仮住まいとして信用が置ける宿をルディリ達の案内で借りて、ドンチャン騒ぎの獅子食亭に来た。


 宿屋の大きな倉庫に1982号305番は、装備してきた戦術装甲を置いた。

「まあ、戦術装甲なんて…必要ないが…まあ、一応な」

 そう、自身が最強兵器の集合体であるので、意味はないが…一応の貰い物ゆえに有効活用しよう。


 そして、獅子食亭ではネオとなった1982号305番の質問攻めと、乾杯ラッシュが続く。

 1982号305番は、一応、果ての果てから来た新たな種族、機神という兵器の力がが宿るマキナ族という種族にして置いて、ここに来た理由が、戦場ばかりに派遣されて妻が友人に寝取られ、それに嫌気がさして出て来たと…。

 それを聞いた一同は、御通夜のように静かになったのは言うまでもない。


 そして、皆が酔っ払って良い頃合いになった頃、ドリンが

「なぁ…リリスガール街へ行こうぜ!」


『さんせーーーーー』とムラマサにルディリ、レリルが同意した。


 1982号305番は、ルディリ以外の三人にもナノマシンを入れて言語統一をさせたが、知らない概念は一致されていない。

「なんだ? そのリリスガール街って?」


 四人はネオの1982号305番を凝視して、ルディリが

「リリスガールって知らないの?」


 1982号305番は本気で意味が分からず

「なんだソレは? ガールというのだから…女性が関係しているのか?」


 ムラマサが1982号305番の肩を持ち

「そうか…アンタ、真面目な感じがするから…そうか…大丈夫。気持ちいい事するんだから、オレ達に付いてきな!」


「んん? ん…」

と、1982号305番は、張り切っている四人に戸惑うも言う通りに付いていく。


 そして五人は、ピンク色のネオンに包まれたリリスガール街へ来た。


 1982号305番は顔を引き攣らせる。

 きわどい服を着た各種族の女の子達が、通り掛かる様々な種族の男達の腕を掴み誘っている。

 1982号305番は、人類が地球にいた時分の21世紀中盤以前の歴史のデータを振り返って適合する風景を検索すると、キャバクラという女の子の接待でお酒を飲む映像データと一致した。

 1982号305番は「ああ…」と呟く。

 多分、この後も女の子を囲んでお酒を飲むのだろう…と分析した。

 正直、その文化は21世紀後期に入った瞬間、絶滅した文化であるが…この中世くらいの社会レベルでは存在するのだな…と。


 ピンクなお店の道を、ルディリ、ドリン、レリス、ムラマサを先頭に1982号305番が続き、とあるリリスガールの店に来る。

 そこは…獣人の女の子のお店だ。


 獣人のかわいい女の子が「いらっしゃい…」と肉球の両手を振って笑顔で誘う。

 ドリンが来て

「いや…久しぶり」

と、スケベな顔をする。


 受付の獣人の女の子が

「最近、本当に来てくれなくて寂しかったにゃあ」


 ドリンが

「おれは、メルちゃん。レリスはルルちゃん、ムラマサは…」


 ムラマサは

「オレは、この子で」

と、受付の獣人の女の子の前にある写真の女の子を指差す。


 ルディリは「じゃあ、この子で」と同じく写真を指差す。


 ドリンが受付の獣人の女の子に

「あと、アイツなんだけど…」

と、受付の獣人の女の子に耳打ちして

「裏オプで」


 受付の獣人の女の子が驚き

「ええ…通常料金の三倍にゃんよ」


「金ならある」とドリンが金貨の袋を置いた。


 リリスガールの店の料金は、相場が決まっている。

 ライトで4000G(4万)

 ミドルで5000G(5万)

 ウェイトで6000G(6万)


 ライトは30分、ミドルは40分 ウェイトは50分


 そして、常連になると、あるメニュー、裏オプというモノがある。

 ウェイトの料金の三倍18000Gで楽しめる豪華なセットが…。


 受付の獣人の女の子が

「どうしたにゃん?」


 ドリンが「実は…」と1982号305番の事情を説明した。


 それを聞いた受付の獣人の女の子が「あう…」と悲しむ瞳をした。

 ドリンが言ったのは、1982号305番は、妻が友人に寝取られて、それに嫌気がさして出て来たという話だ。

「分かったにゃん」

と、納得してくれた。

 初めての客に裏オプなんてさせないが、事情が事情だ。嫌な思い出を忘れさせる為に…了承してくれた。


 1982号305番は、店と周囲を見る。

 まさか、あんな事をするお店とは知らない。どうせ、女の子とお酒を飲む絶滅した文化を体験する程度だと…。


 そして、1982号305番は、ピンクのミラーボールが回るハート型ベッド、ラブホのような場所に来て、ハート型ベッドに腰掛け両脇に獣人の女の子に両腕を抱かれたまま困惑する。


 獣人の女の子達が

「話は聞いたにゃん」

「辛かったにゃんね…」


 1982号305番は困惑で言葉が出ない。


 獣人の女の子達が

「もしかして…こういうお店、初めて?」

「なんか、中年くらいに見えるけど…」


 1982号305番は

「いや、まあ、四十ちょっとだが…。ここは、女の子とお酒を飲むだけの店では?」


 獣人の女の子達が優しく微笑み

「緊張しなくていいにゃん」

「そうにゃん。ここで辛かった思い出を癒やすにゃん」

と、して1982号305番をシャワールームに連れて行った。

 

 まずは、体を綺麗にするのだ。


 1982号305番、衝撃だった。

 二人の自分の年齢の半分くらいの獣人の女の子二人の、裸と裸のボディーマッサージを受けた。

 1982号305番は、余りにも知らない事で困惑して、固まる。

 カチカチの1982号305番をほぐす為に、二人のリリスガールが、シャワーで軽めのフレンチキスや、1982号305番のマイサンを優しく咥えほぐしていく。


 ネオデウス1982号305番

 恒星間戦術兵器ネオデウスである彼の戦った戦場は、苛烈と過酷。

 その言葉に尽きる。

 百度は超える超熱波の砂漠、マイナス100度は超える極寒地獄の凍土。

 そんな絶望的な環境で、彼は、1982号305番は戦い続けた。

 その戦場には、全長数十メートルの兵器のバケモノが跋扈する。

 蟻の子さえ逃がさない程の宇宙戦艦が頭上を覆い尽くす。

 そんな戦場を単騎で戦い続けて来た。

 まさに生ける伝説の宇宙の戦士。


 そんな彼は、どんな戦場より未知なリリスガールに為す術がなかった。


 シャワーが終わりベッドにて、二人の獣人のリリスガール達による裏オプメニューが始まった。

 そこには発見があった。


 1982号305番が今まで知らなかった男女の肉体言語の発見があった。


 40歳ちょっとの1982号305番は、初めて男女の肉体言語で、こんな事ができるなんて…と知った。

 裏オプメニューの時間は、通常の倍だ。

 二時間を濃密な肉体的男女言語で過ごした1982号305番は、終わった後は腰が抜けて立てなかった。

 それを近い体格のハーフドラゴンのドリンや、エルフのレリルが腕を肩に抱えて運んでくれた。


 顔が真っ赤の1982号305番を肩で抱えて運ぶドリンやレリル。

 ルディリが

「だ、大丈夫?」


 ドリンがちょっと申し訳なさそうな顔で

「やばかったかなぁ…」


 1982号305番が

「すまん。宿に帰りたい…」


 その願いを聞いて四人は、1982号305番を取った宿の部屋に運んで、1982号305番はベッドに仰向けに寝ると額を押さえる。

 先程の事が衝撃すぎて、未だに脳裏によみがえる。


 そして、すっと、額に置いた右手を横にながすと、立体映像のキーボードが出現し、1982号305番は報告書を書く。



 報告書


 現在、この別世界に来て、現地住民とコンタクト。

 そして、現地住民の風俗に関する事に接触する。

 社会が中世レベルと思って侮ってはいけない。

 我々が過去に置き去った…昔の男女の…。

 とにかく、侮ってはいけないと思い知らされた一日だった。

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