第17話 オンラインゲームとは……
サザエさん症候群を無事に乗り切った勢いで平日は何事もなく……いやあったな一つだけ。
定例の社内大会準備の打ち合わせが終わった後、友田さんとお昼に行った時の一幕が。
「ねぇ、小和田君……」
「なんでしょう?」
友田さんのチョイスでシェーキーズのランチバイキングとなったお昼時。
仕事中は見た事もない変に神妙な顔つきになった友田さんはちょっと身を乗り出して声のトーンを落として問いかけてきた。
対面に座っているので普段より顔が近くてちょっとドキッとしてしまうけど相手は真面目な話をしようとしているのだしぐっと逃げたいのを我慢してコーヒーを口に含みながら内容を告げられるのを待つ。
「先週貴方の家にお邪魔させてもらった時、階段のところにいたのは妹さん?」
「ぶっほ! ゲホゲホッ……ゲホッ」
モモちゃん見られてたァ!!
盛大にむせたけどホットコーヒーだったのでたくさん口に含まなくてよかった……。
「やだもぉ、大丈夫ぅ?」
僕が噴出したのがそんなにおかしかったのか『しょーがないなぁ』って顔でテーブルに備え付けの紙ナプキンを手渡してくる友田さん。
もうほとんど食べ終えて食後の一服タイムに突入しててよかったよ……。
「ありがとうございます……いえ、近所に住んでる子ですよ。何か懐かれちゃって」
うん、嘘は言ってない。
「そうなんだ。ほら、兄妹がいるとかって話聞いた事ないからもしかして年下が趣味なのかなぁって……まぁあれと本当にお付き合いしてたら犯罪だけどね」
デスヨネー。
誰がどう見ても僕犯罪者に見えますよねー、あれ。
「違いますよ。趣味が合うからってだけです! 僕がコーチしてるっていうか」
受け取ったナプキンで口元とこぼれたコーヒーをふき取りながら僕はそう答えた。
「趣味?」
口で説明してもわかりづらいかなと思ったのでおもむろにポケットからスマホを取り出してゲームと連動しているアプリを起動、リリィが写っている画面にして友田さんへと見せる。
「これは……ゲーム?」
「そうです。と言ってもこれは連動アプリでゲームそのものじゃないですけどね」
続けて僕はアプリを落として画像フォルダから取り込んだスクリーンショットを数点見せる。
「最近のゲームって綺麗なのねえ。本当の世界みたい」
「そうなんですよ。僕も遊び始めて半年くらいですけどここまで凝った画面でしかもオンラインなんて中々ないんですよねえ」
世間的には認知されてはいるものの、それは決して良い評判とは言えないのがオンラインゲーム、ひいては僕が遊んでいるMMO―RPGというジャンルだ。
2000年代初頭、今でいう『第一世代』のMMO―RPGは昨今のライトな感覚で遊べるゲームではなくてタイム・トゥ・ウィン、つまりどれだけ長い時間ログインできるかで強さが決まると言っても過言じゃなかったらしい。
サーバー内に一つしか存在しない超レアな装備だとかはもちろんの事、レベル上げすら下手をすると社会人が使える時間をフルに使っても1か月で1レベル上がればいい方みたいなとんでもないマゾさが売りで、ゲーム内で強くなりたい、のし上がりたいからと会社や学校を辞めてまでのめり込む人達……つまりニートを大量生産した功罪を持つらしい。
とまぁ、ここまでの話はセシルさんとラズベリーさんの100%受け売りなんだけども。
でもそんな感じに発展してきたジャンルだから世間の目はあまりよろしくなかったらしい。
ところが、今僕が遊んでいるタイトルに限ってはそういう風潮を長いゲーム史の中でも本当に一瞬にして向かい風を追い風へと変えてしまったのだとか。
前面に出て公約を掲げるプロデューサーは声高に『自分が遊びたいと思うゲームを作る』と宣言し、ユーザーの声に傾聴して、でも自分の曲げられない信念は貫いて……そんな風にしてマイナスのイメージだったゲームを瞬く間にプラスへと変えていったのだとか。
「ふぅん。楽しそうだねぇ」
僕が普段はしない熱弁を振るったのが功を奏したのか、友田さんはうんうんと頷きながら僕の拙いゲームの説明を聞いてくれた。
ゲーム自体は市民権を得ているし今や全然マイナーな遊びではないはず。
僕の感覚だけどそれはアニメを見るとかラノベを読むとかと言った他の『オタク的な趣味』よりはずっと敷居が低いはずだ。
「で、つまりそのゲームでうまくなりたいから特訓してたって事ね?」
友田さんが念押しとばかりに確認してくる。
「そうですよ。同じ職業を選択してて僕の方が上手いみたいで」
「ゲームの中で職業選択とかあるのねえ」
友田さんの中でゲームと言えばアクションとかシューティングとかパズルなんだろうか?
結構昔からRPGは職業を選ぶゲームあると思うんだけども。
「友田さんはあまりゲームとかしないんです?」
「しない事もないけど……今はもう帰ったら疲れちゃってご飯食べてお風呂入ったらすぐ寝ちゃってるわね」
「うわぁ……激務じゃないですかそれ……そんなに忙しいんです? 横浜の方は」
「ううん、仕事量はこっちにいた時とあまり変わらないわよ。そうじゃないの……」
ん?
憂いというか困ったというかちょっと表情が曇る友田さん。
「僕にできる事あったら言ってくださいね!」
でも僕にはこれくらいしか掛けられる言葉の持ち合わせは無い。
「ええ、何かあればそうさせてもらう。ありがとうね」
ふふっ、と静かにほほ笑んだ友田さんは……ちょっと遠い目をしていた。
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