第8話 だからどっち!?
と、いうわけでお昼をお替りしたお陰でお母さんの夕飯を控えめなボリュームで食べ終わって自室。
特に読みたい本も聞きたい音楽もないのでいつも通りオンラインゲームにログインする。
そういえば何か忘れているような気が……。
ほんのちょっとだけ何を忘れたのか考えてみたけど思い至る事は特にないので気を改めてあいさつ文を入力する。
リリィ=リィ:こんばんは♪
もうすでにほとんどの人に男性プレイヤーだとバレているのにネカマチックな挨拶なのはクセだ。
いやネカマじゃないけど、断じて。
セシル=ハーヴ:よし、全員揃ったし行くかー
すでに今日の予定、霊峰の地下洞窟に挑むメンバーは全員ログインしていて僕を待っているらしかった。
手早く準備を済ませていつものたまり場、住宅街の坂の中腹にある東屋へリリィを運ぶと、そこには変わらぬいつものメンバーが到着を待っていて、待ち時間で雑談に興じていたようだ。
イリス=グラジオス:あーちょっとリリ
リリィ=リィ:ん?
イリス=グラジオス:何か気づかないか?
リリィ=リィ:ん??
イリス……敬太に言われて画面上にある言外の情報を拾おうとしばし観察するけど……。
リリィ=リィ:何かあった?
特に変わった様子は無い……はずだ。
ラズベリー=パイ:安定的にニブいねぇリリちゃんは
セシル=ハーヴ:言うなよ、絶対言うなよ……?
リリィ=リィ:………
てかさぁ。
僕がそういうの鈍いっての知ってて仕掛けてくるんだもんなぁ。
ほんと、愛されてるなぁ……。
イリス=グラジオス:はい時間切れ~。ヒント・メンツ
んん?
何そのヒント……。
リリィ、イリス、ラズベリーさん、セシルさん、そしてアールちゃん……。
ん?
一人……ウィンさんがいない。
そういえば昨夜もログインしてなかったっけ。
つまり?
ウィンさんは何らかの事情でログインできないって事?
そこまで頭の中で思考した直後、それまで無言だったアールちゃんのチャットが流れた。
アール=リコ:別れちゃったw
リリィ=リィ:えええええええええええええ!?!?!?
え、ちょっと早くない?
僕昨日の夕方にその決意聞いてまだ一日しか経過してないんだけど!?
アール=リコ:前からずっと考えてた事だしねー、何かこれ以上は無理だなって事で
うーん、そうか、そうかぁ。
まぁ本人がそれで良いなら良いんじゃない、かな?
そっか、それでショック受けてウィンさんログインしてないのかも。
こういうのは男の方が引きずるって聞いたことあるし。
ん~、まぁオンラインとはいえフレンドリスト表示はされるし居づらいよなぁ、切り出された方としては。
アール=リコ:ま、ウィンは納得してないんだけどねw
リリィ=リィ:は?
え、つまり別れたってのは……え?
ちょっと思考が追い付かない。
別れたの?
別れてないの?
アール=リコ:まぁ、そういうことなんでひとつヨロシクw
だからどっちなの~~~~!
セシル=ハーヴ:さて、ひとしきり恒例行事が終わった所で、行ってみるか。6人以上推奨だけど俺らなら5人でも問題ないだろ
僕の頭の混乱を知らないメンバーが銘々に『お~』とか『おれはやるぜ』とか『頑張ろうねー』とかセシルさんの発言に肯定の意を示す。
ラズベリー=パイ:期待してるよ、回避盾さん♪
セシル=ハーヴ:初めての所だからうまくできるかは知らんw 期待してるよメインヒーラー
ラズベリー=パイ:メインって言うかサブヒーラーいないんですけど……
セシル=ハーヴ:キノセイw
リリィ=リィ:わたしがヒール補助するよ
セシル=ハーヴ:リリちゃんは黙って特大ダメージ出す事に集中しろ、余計な事すんなw
リリィ=リィ:……
そんなこんなで僕たちの初ダンジョンは無事にクリア出来て、しかもアールちゃんは最大のお目当てだった《ヴォルケーノワンド》というこのダンジョンで取れる魔法使い用の武器を運よくゲットできた(道中の動きはまだまだだったけど)。
そのちょっとした冒険は日付が変わる30分くらい前に終了し、各自が明日のためにログアウトして寝ようとしだす頃。
>>アール=リコ:今週の土曜日も遊びに行ってもいいかな? 今日LINEで教えてもらった事まだうまくこなせてないから直接教えて欲しいかも
突然の個別チャットが飛び込んでくる。
特に出かける用事はないし一日中ゲームをしてだらだら過ごすつもりだったけど、特に理由もなく断ったら今度は問答無用で押しかけられかねないな。
リリィ=リィ>>:わかった。でも午前中は惰眠を楽しみたいから午後からにしてくれると嬉しいかも
>>アール=リコ:おっけー
いいのかなぁ。
恋人と別れたんだかそうじゃないんだか分からない子をまた家に招くなんて。
ゲームの操作指南だし、やましい事はないし、そもそも階下にお母さんもいるし。
僕とモモちゃんが『そうなる』事は無いだろうし……。
関係ないけど、初ダンジョンクリアの達成感の余韻に浸りながら就寝した僕はまた、昔の夢を少しだけ見てしまった。
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