直接お断り申し上げる
ビスマルクさんは二人に、
「寒い中、こんなところに来ていただき申し訳ない」
「お二人の返事は芳しくないものでしたが、当方としては、お二人には心より望んで身を差し出していただきたい」
「そのため、チーフシャペロンのジョージアナ陛下に、詳しい説明をしていただけるようにお願いしたのです」
「ところでいろいろ話はされましたかな?」
「お聞きしました」
ヒルデガルド・クラムが答えます。
「説明はお聞きしましたが……」
キンスキー・フォン・リヒテンシュタインが不安げに答えます。
……確かにね……いくら言葉で説明されてもね……
ヒルデガルド・クラムはいってみることにしたのです。
「私たちもレディの端くれ、望んで夜の女のようになれと云われても……」
「そのような事、許されるということが理解できれば、おっしゃられるような行動もとれるかもしれませんが……」
ビスマルクさんとしては、これでは脈なしと判断したようです。
「そうですか、無理強いはアリアンロッド様は望まれない、この話、無かったことに致しましょう、ご苦労様でした」
なんて云ったのです。
やり取りを聞いていたソフィア・ペロフスカヤが、
「アリアンロッド様に出会えば、どんな女でも確実に望むのですから、そのような懸念は必要ないのです」
「アリアンロッド様は当人が嫌がる事はされないが、私が聞き及んだ範囲ではそのような女はいない」
「貴女たちも嫌なら嫌と言えば良い、それで不利益が発生することなど絶対にない」
「もしそんな事をするものが出れば、アリアンロッド様のお怒りを買うだけだ」
「分りました、直接お断りさせていただきます」
「アリアンロッド様に『直接お断り申し上げる』として、なかなか出会えないでしょう」
「私に考えがあります、少し失礼します」
ソフィア・ペロフスカヤはホールに付属する別室に入り、ポケットから小さなオルゴールを取り出し、いわゆるオルゴール通信をかけました。
相手はチーフシャペロンのジョージアナ陛下です。
「お久しぶりです、ジョージアナ陛下、ご指示の通り、ヒルデガルド・クラムとキンスキー・フォン・リヒテンシュタインの質問に答えておりますが、お断りしたいとの考えのように思われます」
「そこで提案なのですが、ニライカナイに招待されてはいかがですか?」
「直接アリアンロッド様に会い、断ったのなら致し方ないのではありませんか」
「この後、私は惑星世界管理局に戻りますので、二人をニライカナイに引率してもいいですよ、ただ帰りはお願いします」
その結果、チーフシャペロンの職権で二人を侍女として採用、ホステス、清女(きよめ)に任命することになったのです。
戻ってきたソフィア・ペロフスカヤが、
「チーフシャペロンのジョージアナ陛下と相談した結果、当面二人を侍女として採用、ホステス、清女(きよめ)に任命することになりました」
「これなら任意に退官できます、侍女なら寵妃といっしょならネットワーク・レイルロードで、世界の中心、ニライカナイまで行くことができます」
「ニライカナイなら、事務局に面会を申し出れば待つかも知れませんが、会うことが出来るでしょう」
「そこで直接お断り申し上げればとの事です」
「これならその後、何事もなく退官出来ます、それに拘束する代価として女官退官者の扱いとなり、ささやかながらアリアンロッド様のご加護もあります」
こんなことがあって一八七六年の二月、ニライカナイで二人は初めてアリアンロッドに会ったのです。
このとき、セパレイティスト・クラブの二人のシャペロンにも初めて会いました。
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