中国茶館で 其の二
しばらく考えているような婦人士官さんでしたが、
「私はソフィア・ペロフスカヤといい、ロシアの秘密結社、チャイコフスキー団に所属していました」
「アレクサンドル二世の宮廷に、ロシアの女官として潜入していましたが、クリスマスにやってきたアリアンロッド様に見とがめられ、追放になったことがあります」
「その時、私は世界をどうしようと思われているのか?と聞いたことがあります」
「その返事は『明日のない世界に明日をプレゼントするのですよ』でした」
「そして胸元に手を突っ込まれ、『これ以上聞くとこれではすみませんよ、代価は高いのですよ』とも云われました」
「いま思うに本来は死罪でもおかしくない私、なんせ皇帝暗殺をたくらんでいたのですから、それを胸を触って代価としてくださったのでしょう」
ソフィア・ペロフスカヤは言葉を続けます。
「アウグスタ戦争はなぜ起こされたのか」
「この戦争は『明日のない世界に明日をプレゼントするのですよ』、ということです」
「貴女達は意味が分からないでしょうが、この世界は滅びかかっていたのです」
「私はアリアンロッド様の夜に侍り、足を開いた代価として、数々の世界の秘密が開示されました」
「貴女達はまだ身を差し出したわけではないので、詳しくは御教えできませんが、アウグスタ戦争の結果、世界は滅亡から救われたのです」
「戦争がなければ明日にも世界は滅亡するしかなかったのです」
「抽象的で申し訳ないのですが、この世界は悪魔が作り上げた世界、私も貴方たちも悪魔によって作られたと考えて間違いではない」
「そして神はそれを忌み嫌われた」
「あってはならない世界は存在を許されない」
「それをアリアンロッド様は世界と私たちを作り替え、存在を許されるようにした」
「アウグスタ戦争はそのためにどうしても必要だったのです」
「そしてなぜドイツ帝国が贄に選ばれたのか?」
「それはドイツが優秀で理屈が多いのが理由です」
「私がヒルデガルドさんの質問の答えとしてはこれが精いっぱいです」
「これ以上知りたかったら、アリアンロッド様の女奴隷となり足を開くことです」
……世界の滅亡ですか……
ビスマルク宰相の書簡には、ドイツの為に犠牲になってほしいと書かれていたけど……
「私も『女奴隷として足を開く』事になるとして、一つお聞きしたいことがあります!」
キンスキー・フォン・リヒテンシュタインさんが質問します。
「失礼な言い方ですが、ソフィア・ペロフスカヤさんは『足を開いて』なにか得ることがありましたか?」
「私が『足を開く』とどうなるのでしょう?」
「国家のために犠牲になれとビスマルク宰相の書簡にありました」
「私はそのために『足を開く』覚悟をするとしたら、その後、私はどうなるのか」
「夜の奴隷となり、毎日それだけの日々を送るのでしょうか?」
「いわゆる『足を開く』ことになれば、信じられないほど世界は広がる」
「アリアンロッド様はこうおっしゃった」
「『狭い世界でうじうじ迷ってはつまらないでしょう、貴女は賢い、視野を広げなさい」
「もし私の女になる気があるなら訪ねてきなさい、足を開く代価として世界を見せてあげます、女奴隷としてね』」
「そして私はそのために一介の兵士として婦人戦闘団に入り、ヴェルダン防衛戦で死力を尽くし、それが評価され夜に侍る栄誉を得た」
「貴女も『足を開く』こととなれば、その後はこの世界がどれほど小さい世界か知ることができるだろう」
「少なくともガヴァネスとして女孺(にょじゅ)になれば、垣間見ることができる」
そこへビスマルク宰相がやってきた。
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