中国茶館で 其の一
「ヒルデガルド・クラムさんですね」
うなずくと、
「どうぞ、中へお入りください、外は寒いでしょうから」
中に入ると暖かいのですが、暖炉など見当たりません。
「そちらにコートハンガーがありますから、どうぞ」
どうやら、ここでは全て自分でするようのです。
侍女などいそうもありません。
『Chinesisches Haus』の内部は、吹き抜けのホールと付属の部屋があるだけ。
内部装飾は豪華絢爛ですが、家具はテーブルがポツンと一つ、そしていくつかの椅子があるだけ。
その椅子にもう一人、妙齢の婦人が座っていました。
帽子と外套をかけると、
「こちらにどうぞ」
と、テーブルへ案内されました。
会釈しながらテーブルにつくと、相手も会釈を返しました。
綺麗な婦人で歳のころは二十二三でしょうか……
でも、緊張で顔が青ざめています。
……私も同じような顔なのでしょうね……
「ヒルデガルドさん、お茶でもいかがですか?」
と、婦人士官さんが声をかけてくれます。
「お願いできますでしょうか?」
「ロシアティーでよろしいでしょうか?といっても私はロシア人ですから、ロシアティーしか淹れれませんが」
といってお茶を淹れにホールを出ていきました。
「キンスキー・フォン・リヒテンシュタインです」
「ひょっとして貴女もビスマルク宰相から呼ばれたの?」
突然相手が自己紹介をしてきた。
「ヒルデガルド・クラムです、私もビスマルク宰相から呼ばれました、用件は多分同じと思います」
「ヒルデガルドさんはホーエンツォレルン、私はハスプブルグの献上品という訳ね」
「しかしリヒテンシュタイン公女であられる貴女が、犠牲にならなくても……」
相手は公女、家名にリヒテンシュタインとありますのでね。
「オーストリアはエリザベート皇妃をといったらしいけど、セパレイティスト・クラブが断ったらしいの」
「ドイツのほうは王族に該当者がいないとお聞きしました、で、下っ端の男爵の娘が選ばれたと云う訳です」
……
そこへ婦人士官がお茶を持ってきました。
「どうぞ、こちらはロシア皇帝が毎月送ってくださる焼き菓子です」
「ビスマルク宰相がこられるまで、後二時間ほどかかります」
「ここにいらっしゃったのですから、貴女達の質問などあれば何でも答えよと、チーフシャペロンのジョージアナ陛下から命じられています」
「ではお答えください、私は先ごろベルリンのパレードで起こったテロ未遂事件を間近で見ておりました」
「私も一言いいたかったのです、『人殺し!』と、しかしアリアンロッド様は怒りもせずに不問にされました」
「鬼とも魔女とも呼ばれ、冷酷非情の権化のようにいわれている方、本当は優しいのではと思えてならないのです」
「そんな方がなぜ戦争を起こされたのか、どうしても理解できないのです」
「好色といわれておられますが、それならなぜエリザベート皇妃を受け取られなかったのか、絶世の美女ですよ」
「好色なら相手の気持ちなど関係ないはずではと、思うのです」
「どうもアリアンロッド様の実像は違うと思われます」
「相手を思いやれるかたなら、戦争の被害はご存じのはず」
「このアウグスタ戦争はなぜ起こされたのか、私はそれを知りたいのです」
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