壊れそうで壊れない優しい『ういろう』
再びお春さんが坪井船長に、
「皆様、ご希望のようです」
ここで気を利かせたお春さん、
「昨日、皆様とお茶をしたのですが、西洋ではお茶にお菓子をつけるようです」
「茶菓子ですね、小官もアメリカでティーにクッキーを食していました」
「そうですね、ではなにか合うものをつけましょう、お気遣い、ありがとうございます」
このやりとり、四人の女たちには聞かれていました。
戻ってきたお春さんに、
「お春さんってよく気がつくのね」
ルイーズがいいました。
坪井船長がやって来て、
「用意ができました、できますれば日本の方に運んでいただけませんか」
「やんごとなきご婦人方相手に従兵では心もとなくて」
で千代女さんとお春さんがお運び役を引き受けたのです。
茶菓子は羊羹、虎屋さんでしたね。
案外にお茶にはうるさい四人、玉露の味が分かるようです。
ただ羊羹の評判はさらに良かったようで、要望があり薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)も提供されました。
この二回戦あたりで、千代女さんとお春さんに他の女たちも気安く声をかけはじめます。
「千代女さん、この饅頭というもの、美味しいわね、日本のお菓子もなかなかよ」
「そういえばアリアンロッド様から、『あんパン』というものをいただいたことがあるけど、この中心の甘いものは同じものよね」
とか……
千代女さんとお春さんが日本のお菓子の説明をしたお蔭で、この後『ぜんざい』も出されます。
ルイーズは『ぜんざい』の意味を坪井船長から聞きました。
二つの説があるとのことですが、ルイーズは『よきかな』と、その昔の高僧がいったという説が心に響いたようです。
人を褒める時に使う言葉、素晴らしいとの意味。
「いい言葉ね、『よきかな』、『ぜんざい』ですか、これを食すると元気がでます」
「私も元気が出る『ぜんざい』のようになりたいものね、分かりよいわ♪」
たしかに千代女さんとお春さんは、ルイーズさんの思いやりに触れて元気が出たのは確かなのです。
後でお春さんが千代女さんにこういったのです。
「ルイーズ様って、綺麗で気品があってお優しいわ、お釈迦様のお誕生日にいただいた甘茶を思い出すわ」
「優しくってありがたいお味なの、落ち着くわ」
ルイーズさんは元気がでる『ぜんざい』ではなく、優しくありがたく落ち着く『甘茶』のようらしいのです。
この話を千代女さんから聞いたアリアンロッドさんは、
「少しばかり違うようですね、いつも元気をくれるのはアリソン・ベルさんで、ルイーズ・ドルレアンさんは『ういろう』のような方、壊れそうで壊れない優しい方なのよ」
千代女さん、アリアンロッドさんがルイーズ・ドルレアンさんを高く評価しているのを始めて知ったのです。
ブルボン・オルレアン家の美貌の王女、ルイーズ・ドルレアン、金髪でスタイル抜群、なにかしらセクシー、壊れそうで壊れない優しいフランス女性……
この『ういろう』のような女性のおかげで、フランス第三帝国内の自治領、オルレアネー王国は成立したといえるでしょうね。
FIN
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