神戸居留地見学


 アリアンロッドは、日本政府の太政大臣三条実美を東京までマッハ号で送ることになり、今日明日は留守となりました。


 マーガレット、エカチェリーナ、ルイーズ、アリソン・ベルの四人には、その間日本政府から内海遊覧に招待されたのです。

 暇を持て余していた四人は招待を受けることにしました。


 正直なところルイーズはほかの三人と違い、それほど興味は無かったのですが、一人だけつきあわないのもどうかと考え賛成したのです。


 なんでも瀬戸内海を遊覧しながら神戸に一泊というものらしく、第一利根川船という日本海軍の運送船に乗船するようです。


 この船は一八七三年十二月二十三日竣工の木造外輪汽船、排水量百十九トン、吃水〇.六六メートル、全長四十メートル。

 もともとアリアンロッド訪日のために突貫工事で改装、沿岸航路を利用し横須賀から回航したそうです。

 川口の港でも、この吃水なら入港できますからね。

 神戸居留地にも寄るのは、日本の開化政策をアピールしたいのでしょうね。


 船長は坪井航三少佐といい、第一丁卯艦を択捉島で座礁させ非役となっていたのを、アメリカ留学を見込まれ再抜擢されたようです、大丈夫なの?


 船は川口居留地の隣、富島にある元大阪税関付近の埠頭に係留されているそうです。

 この地は日本政府からブラックウィドゥ・スチーム・モービルに格安で提供された隣接地の一部です。

 大阪税関は再度別の場所に移動したとのことですね。


 この話をどこから聞いたのか、フランス領事からフランス海軍の二等装甲艦ベルキューズの提供の申し出がありました。


 アリアンロッドさんの指示を受けて、マーガレット王女がやんわりと断り、護衛につくということで決着したようです。


 確かに高貴なプリンセスが幾人も乗っているのですから、当然といえば当然なのですけどね。


「護衛の婦人戦闘団員の方も同行してもらいましょう、せっかく極東まで来たのですから」

 エカチェリーナ大公女の提案ですが、四名の婦人戦闘団員も休暇ということで、神戸居留地見学に同行することになったのです。


 ここでルイーズ・ドルレアンが、

「この間、アリアンロッド様がお連れになった、日本の方も同行していただいては?」


「なんでもアリアンロッド様がご購入されたとか、どのみちガヴァネスは致し方ないと考えますが?」


 ……沈黙が支配します……


 四人のリーダー格でもある、マーガレット王女がため息をつきながら、

「同意せざるえませんが、複雑な気持ちもあります……」


 エカチェリーナもアリソン・ベルも、同じようなため息をつきました。


「皆さんのお気持ちは痛いほど分ります」

「確かにそれなりのお仕事の方と伺っておりますが、日本の方はアリアンロッド様が強引にご購入された方、訳も分らず知らぬ場所に連れてこられて独りぼっちなのですよ」


 ルイーズの言葉を受けてアリソン・ベルが、

「そうですね、この後、日本の方とも仲良く過ごさなくては……皆、アリアンロッド様にお仕えするのですし」

「それに私たちが出会ったときは角突き合わせた仲でしたが、今ではこうして仲良く出来ているのです、一緒に神戸居留地を見学いたしましょう」

 といってくれたのです。


「いわれれば……そうですね、私が狭量でした、一緒に楽しみましょう」

 エカチェリーナも同意しマーガレットも頷いたのです。


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