オーサカホテル


 来日初日の夜、ブラックウィドゥ・スチーム・モービル社主、アリアンロッドが日本帝国の大坂鎮台司令長官の態度に激怒、日本滞在をキャンセルするといいだしたのです。


 日本政府に激震が走ります。

 調べてみると大坂鎮台司令長官が、

「護衛の人間を連れてきた、腕は保障する、ところで何を売りに来たのか?」


 といったらしく、世界支配機構であるブラックウィドゥ・スチーム・モービルをどこかの商社と勘違いしての態度、同席していた大坂歩兵第八聯隊長の報告によると、大変無礼な態度だったとのことでした。

 

 公開株の所持組織は日本政府の不手際をせせら笑い、オーナーは日本人でも日本政府に対して好意があるわけではない、と理解したのです。

 

 日本政府の太政大臣三条実美から緊急の謝罪電があり、エカチェリーナ大公女のとりなしも手伝い、なんとか三日ほど待ち謝罪を聞くことになったのです。


 そんなことがあった初日の夜、川口居留地六番地にあるオーサカホテルに一行は荷物を置いたのです。


 ルイーズ・ドルレアンはこの時二十一歳、優しそうな雰囲気を漂わせています。

 金髪でスタイル抜群、押せば崩れそうな深窓の麗人でしたが、夜を知ったからなのか、このごろはかなり官能的な雰囲気が見え隠れしています。


 四人の美女たちの使命はただ一つ、関係のない女をアリアンロッドに近づけさせない事。


 このころセパレイティスト・クラブには、まだネットワーク世界は知らされておらず、これ以上の公妾は極力増やしたくないというのが女たちの望み、それを託されているのです。


 これまでの歴訪した各都市で、四人はよせ来る公妾希望者を撃退してきたのです。

 

 この夜、オーサカホテルは満室、各国の派遣女性が一杯いますが、ここは極東なのですけどね……


 しかもそのスキをついて、アリアンロッドが対岸の松島遊郭というところで遊び、翌朝こっそりと帰ってくるという事件が発生。

 結果的に四人でさんざんにアリアンロッドをつるし上げ、後二日ほどはおとなしくさせたようです。


 到着して二日目、朝帰りで疲れたのか、アリアンロッドは二時まで爆睡、その後、夕方の四時ごろまで何か遠くを見るように、考え事をしていたようです。


 ルイーズ・ドルレアンは心配になってきました。

 アリアンロッドは朝から何も食べてないのです。


 そこでお茶を運び、そして声をかけたのです。

「ご主人様……そろそろお食事をとられなくては……」


「ありがとう、気を使わせましたね、食事の前にこのお茶をいただきましょう、ルイーズさんも一緒にどうですか?」


 夕食は七時の予定、ルイーズ・ドルレアンはそれまで、お茶の相手を務めることになったのです。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る