第五章 ルイーズの物語 極東旅行

ブラックウィドゥ・スチーム・モービル社の最後の一株


 ブルボン・オルレアン家の美貌の王女、ルイーズ・ドルレアンは、王女とは名ばかりの、一族の末席に連なる娘。


 フランス第三帝国内の自治領、オルレアネー王国成立の為、アリアンロッドに一族から差し出された献上品。


 ある日、ルイーズはアリアンロッドの極東行きに同行、生まれて初めての極東旅行が始まった……


     * * * * *


 1875年10月1日、大坂川口居留地の上空に、初めて飛行船がやってきました。


 マッハ号と呼ばれる快速飛行船は、全長は75メートル、最大速度は250キロで、乗員2名、乗客12名。

 ブラックウィドゥ・ノーザンクラウン・エアーフライト社が開発した飛行船で、主に同社の欧米の定期航空路に就役しています。


 このたび初めて、日本帝国の招待でブラックウィドゥ・スチーム・モービル社主が来日することになり、子会社のブラックウィドゥ・ノーザンクラウン・エアーフライト社が、飛行船を提供したのです。


 乗って来たのはブラックウィドゥ・スチーム・モービル社主のほか、付き添いとしての、イギリスのマーガレット王女、ロシア帝国のエカチェリーナ大公女、フランス第三帝国内の自治領オルレアネー王国ルイーズ・ドルレアン王女、アメリカ合衆国のアリソン・ベル嬢の四人……

 護衛としてワキンヤン婦人戦闘団と、ブーディッカ婦人戦闘団から二名ずつの四名、あと操縦士が二名の合計十一名。


 ロンドンからパリ、パレルモ、ウィーン、ベルリン、サンクト・ペテルブルクの各都市を歴訪、一気にシベリア上空から、清国上空を通過してユーラシアを横断、日本の川口居留地に到着したのです。


 日本滞在後、太平洋を横断、アメリカの中央部のブラックヒルズに立ち寄り、ナンタケット島から大西洋を横断して、ロンドン着の世界一周航空路開拓も兼ねているようです。


 日本帝国はこのオーナーの来日の為に、飛行船用地とブラックウィドゥ・スチーム・モービル社の専用用地として、川口居留地隣接地を格安で売却、大坂鎮台を動員、万全の警備を約束したのです。


 ブラックウィドゥ・スチーム・モービル社とは、この世界を支配する組織といわれており、英仏露は政府と君主が一株づつの計二株、ドイツとオーストリアの君主が一株、アメリカ政府が一株所有しており、未確定の株が一株の計十株の公開株と、オーナー所持株が十一株の二十一株しかありません。


 この株の所持者が、世界支配組織たるブラックウィドゥ・スチーム・モービル社を支配しているわけです。

 この公開株の内、二株を所持する組織が世界プレイヤー、つまり英仏露の意向で、世界情勢が決まるのです。


 事実、ブラックウィドゥ・スチーム・モービル社に敵対した、ドイツ帝国とオーストリア帝国とイタリア王国は、アウグスタ戦争に惨敗、イタリアは一等国の地位を失うことになりました。


 敗戦のドイツとオーストリアは、ベルリン講和会議の結果、膨大な賠償金と帝国の解体をのむ代わりに、新たに『ドイツ人による神聖ローマ帝国』を成立させ、ブラックウィドゥ・スチーム・モービル社の公開株、二株の所持を認められ、準世界プレイヤーとしての地位を保証されたのです。


 ビスマルクさんの手腕の賜物といわれています、これに続くのが、一株所持するアメリカ合衆国。

 王室がない以上、一株しか所持できなく、ブラックウィドゥ・スチーム・モービル社の序列では最下位、それでも株主である以上、自らの意見を、世界情勢に反映させることが可能なのです。


 このブラックウィドゥ・スチーム・モービルの株主が世界の列強、そして最後の一株が、どこへ転がるのかが世界の注目を浴びているのです。


 ブラックウィドゥ・スチーム・モービル社のオーナーは日本人との噂があります。

 事実、列強はこの新興の日本帝国の扱いには、多少の配慮を示してくれています。


 オーナーが日本帝国の招待を受けたことで、やはり、と世界は思ったようです。


 事実は違っていたのです。

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