バミューダ・トライアングルの雲


 タテ号は再び高度を上げていきます。

 一万メートルまで上昇したとき、広域監視装置に、なにかポツンと映りました。


「おや?これはなんだ?こちらに向かってくるが」

 そこにはイレギュラーと表示されたものが、映っていました。


 ……やはり出ましたか……時空の歪み……この幽子の世界での時空の歪みって、そのあたりを飲み込み消去することになるのよね……


 こんなもの、誰かの意思がなければ出来ないこと……いまはそんな事は、云っていられないわね……

 大丈夫とは思うけど、ユージェニー達を守らなくては……


 みるみるうちに、その点は拡大していきます。

 そして急速に近づいてくるのです。


 明らかに飛行船のような塊、ふわふわと浮いているようなのですが、あり得ないほど巨大、そしてあり得ないほどの高速なのです。


 巨大さゆえに目視でも見えるはず、しかし見えるのは巨大なレンズ雲。


「雲が映っているのか?強風でも吹いているのか?」


 突然 全自動操縦装置に警告ランプが点灯し、全自動操縦装置から声がしました。

「警告、極めて危険です、当船は引き込まれつつあります」


「危険回避のために、当船の全動力を電気モーターに回します」

「与圧キャビン内の電力は停止、乗員は直ぐに防寒着を着用のこと!」

 与圧キャビン内の電力が、ほとんど提供されなくなり、計器類だけが生きています。


「全員すぐに防寒着着用!座席のベルトを締めよ!いそげ!」

 その頃には、警報が鳴り響いています。


「危険回避の為に、非常操縦計算処理装置起動しました、これより操縦士は、本装置の指示に従ってください」

「前方の危険は時空の歪みと判明、脱出は不可能なるも、全エネルギーを投入して、観察時間を確保します」


「時空の歪み内部、解析中」

「時空の歪み内に、極短時間の脱出ルート出現の可能性発見」

「他の生存の可能性なし、脱出ルートに向かうか、操縦士の判断を求む」


 ユージェニー・ビンガムは、ここで間髪入れずに命じました。

「脱出ルートに向かえ!」


「脱出ルート出現までの、タイムカウント開始」

「脱出ルート出現、突入します」


 渦巻くトンネルのような空間が出現、そこへ突入するタテ号……

 機体が激しく横揺れし、さらには上下にはじかれるように、それでも非常操縦計算処理装置の指示に従い、ユージェニー・ビンガムはタテ号を何とか前へと導いていきます。


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