警戒偵察任務


 翌日タテ号はナッソーを早朝に離陸、ヴァージン諸島あたりまで足を伸ばし、プエルトリコ周辺を一万メートルの高度から監視しています。


「成層圏を飛行すると、嵐は避けられますね」

「でも警戒偵察任務なのに、こんな高度で大丈夫なのですか?」


「広域監視装置が全てを監視している」

「これを見てみろ、このあたりの海域の船舶の状況が、表示されている、船名まで表示されているぞ」


 アメリカ海軍の艦船が、かなりの数表示されています。

「アメリカの艦隊だ、輸送船もいるようだ、プエルトリコに上陸するつもりなのか?」

 

「中尉、どうされますか?」

「モールス信号で警告がわりに挨拶しよう」

 1868年7月に、ウィーンで開催された万国電信連合で決まった、国際規格で通信です。


 ……我、ブラックウィドゥ・スチーム・モービル所属の飛行船タテ号、アメリカ艦隊に敬意を表すために接近する……


 すぐに返電がきました。


 ……当方、艦隊演習航海中なるも、貴飛行船の参加を歓迎する……


「どういうことでしょうね?」


「艦隊演習航海ということにして、ブラックウィドゥ・スチーム・モービルと敵対はしない、友好の証として、演習に招待すると云うことでしょうね」


「プエルトリコ侵攻はしない、スペインと今のところ戦争はしない、そんなところですね」

「まぁ本当に、我々がいることを示しましょう、高度三百まで下降する」


 タテ号はのんびりと下降、雲間から姿を現し、高度三百でアメリカ艦隊の上空に浮遊します。


「ポーハタン――南北戦争時の米国海軍の外輪フリゲート艦、ウィキペディアより――が一番大きいようですね、アメリカ本国艦隊所属ですよね」


「七隻ですか、モニターはいないようですね、こんな小さい艦隊――アメリカ海軍が膨張を始めるのは1883年の艦隊法の成立から――で、なぜプエルトリコに侵攻しようとするのかしらね?」


 タテ号が姿を現すと、ポーハタンを旗艦とするアメリカ艦隊は、見事な艦隊運動で単縦陣から単横陣、二列縦陣、砲撃戦演習を行い、再び単縦陣となりました。


「演習は終了、当艦隊は母港を目指す」

 簡単な無電のあと、プエルトリコから離れていきました。


 アメリカはブラックウィドゥ・スチーム・モービルの軍事力を知っていますから、タテ号がこのあたりまで警戒偵察任務についていることを知り、どさくさに紛れた侵攻計画を棚上げしたようです。


 ブラックウィドゥ・スチーム・モービルの考えを試したようで、ブラックウィドゥ・スチーム・モービルの軍事力に出くわした場合は、撤退する計画だったようですね。


 ……アメリカも火事場泥棒ですか……好きですね……

 ドイツが片付いたら始末、いや、どのみちこの世界を具現化させる時に、迷惑な利己特性は徹底的に刈り取るのですから、今のところこのままでいいでしょう。


 不名誉なインディアン戦争の当事国ですが、曲がりなりにも奴隷解放を宣言した国でもあるし……適応できない幽子は導くこともない……


 アリアンロッドさん、怖いことをつぶやいていますね……


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