危険な任務
「中尉、お一人で偵察任務はおやめください、タテ号は後四人乗れます」
「整備が四人いれば、何かあったときでも対処できます!」
ナンタケット島発着場で、ユージェニー・ビンガム中尉はこのような言葉を受けていた。
整備小隊はナンタケット島発着場に小隊本部を置き、バミューダ・ナッソーに分隊を派遣している。
つまり各分隊の交代人員を、この偵察飛行任務に同乗させる。
さすればユージェニー・ビンガムに非常事態が起ってもなんとか対処できる、という理由のようだ。
「タテ号は最新型の全自動離発着装置を装備した、その上に全自動航法装置も装備している」
「操縦士一人でも飛行任務が可能である」
「今回の任務はナンタケット・バミューダ・ナッソーを周回するのだが、ナッソーからヴァージン諸島あたりまで足を伸ばすつもりだ」
「プエルトリコを警戒偵察するのが本任務の主目的である」
「タテ号がプエルトリコ付近まで偵察飛行をしていることを各国に知らせ、アメリカに無用の野心を抱かせないようにするのだ」
「うっかりするとアメリカ艦隊と交戦する可能性がある、危険である」
「皆、知っているはずであろう?」
「だったらなおさらに人手はいるのではありませんか!」
「搭載の重機関銃も全自動ではありませんよ!」
タテ号には全自動離発着装置を装備したとき、ホ1、つまり試製二十粍旋回機関砲を二丁搭載しています。
そして奥の手として、極秘に『粘着型空間転移振動破壊弾』の発射装置を一基搭載、弾は五発ほど収納ボックスにあるそうです。
惑星テラで満載十万トンの空母を一発で撃沈した曰く付きの兵器。
こんなもの使われたら……このブリタニカ世界としては無敵の兵器、この兵器はタテ号にだけ搭載されています。
あまりのオーバースペックに、さすがのアリアンロッドも内緒でこっそりと搭載したようです。
知っているのは婦人戦闘団の幹部だけ。
対地攻撃にも使えるとあって、男どもが知れば直ぐに使ってしまうのが最大の理由と説明されています。
建設構造物など一発で破壊しますからね。
しかもタテ号は一万メートルを飛行できます。
「なぜ、危険な任務に志願するのか?」
「セーラム・レディス・カレッジの生徒は可愛くてね」
「彼女たちがアメリカと我々の間で、途方に暮れるのは見過ごせない」
「ここでタテ号がナンタケット・バミューダ・ナッソーを周回する警戒偵察任務についていれば、アメリカはプエルトリコにチョッカイを出さない」
「さすればアメリカと婦人戦闘団員の関係は、今のままではありませんか」
つまり、なにかあれば重機関銃で威圧して、警戒偵察任務を何事もなく遂行する……
重機の発砲ぐらいですめば、アメリカとの関係がこじれることはない……
という理屈のようです。
もしタテ号がアメリカに撃墜されれば、ドイツの次はアメリカとなる……
ユージェニー・ビンガムとしても、このようなことは避けるべきと判断しているのです。
「レディス・カレッジの生徒の為?なるほど」
ユージェニーは整備兵の提案に乗ることとしました。
……なんといっても兵の士気は大事ですからね……
ナンタケット島はブラックウィドゥ・スチーム・モービルの婦人特別自治区、男子禁制の島ですがあくまでもアメリカ領です。
そしてセーラム・レディス・カレッジというのはノースカロライナ州セーラムにある一七七二年創立、一八六六年に大学となった女子大学です。
アメリカ合衆国の要請で経営権をブラックウィドゥ・スチーム・モービルが手に入れ、ナンタケット島に移転させた女学校、新世界のホステス任官課程があります。
選りすぐりのアメリカの女性が在学しています。
ここの生徒はブラックウィドゥ・スチーム・モービル社員には絶大な尊敬を払ってくれます。
ホステス任官課程生徒はブラックウィドゥ・スチーム・モービル社員でもあると自覚しているようです。
この後、セパレイティスト・クラブとブラックウィドゥ・スチーム・モービルは別組織となるのですが、この時期は一体となっていたのです。
同じ組織の一員、そして凛々しい婦人戦闘団の飛行船関係の部隊である。
整備小隊は人気があるわけです。
このような経緯があり、タテ号はユージェニー・ビンガム中尉と交代の四人の整備兵を載せて、ナンタケット島発着場を離陸したのです。
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