トカイ・エッセンシアの効能


 ある夏の日、新設されたブラックウィドゥ・ノーザンクラウン・エアーフライト社の発着場に、始めての定期便が到着しました。

 記念式典が行われ、各国の新聞記者が乗客の一人を囲んでいます。


 写真は厳禁ですが、記者たちのインタビューには丁寧に答えたその女は、宿泊場所でもあるバウハウト城へ、管理人のオーギュスティーヌの出迎えを受けたのです。


「元気そうね、良かったわ」

 気安く声をかけた女に、

「アリアンロッド様にははるばるとお越しいただきありがとうございます」

「ブリュセル・BSM・ガールスクールの生徒たちもよろこんでいます」


「そうでもないでしょう、面倒なおばさんがやってくるので舌打ちしているでしょう」

「そんな事はないはずです!」


 オーギュスティーヌが正しかったのです。

 かなり熱狂的な歓迎を受けたアリアンロッドさんでした。


 夕食をアリアンロッドは、ブリュセル・BSM・ガールスクールの食堂で生徒さんたちとともに食べています。


 堅苦しいことの嫌いなアリアンロッドのために、立食のバイキングになっており、歓迎パーティーとのことです。

 生徒さんたち、かなり挑発的な制服の着方でしたが、なぜかこの日のパーティーに限って黙認されていました。


 豪華なベルギー料理が並んでいますが、アリアンロッドはフリカデル――ミートボールの煮込み――とかクロケット・オー・クルヴェット――小エビのコロッケ――とかばかり。

 フリッツとベルギービールを抱えてご満悦でした。

 このビールはウェストマール修道院のトラピストビール、当時はウェストマールの村でだけ販売されていたようですが、特別に調達したようです。


「やはりビールはベルギーね♪」

 お色気攻勢もなんのその、楽しそうに飲んでいました。


 九時にはパーティーはお開き、バウハウト城に戻ったアリアンロッド、飲みすぎて暑いのか、かなりあらわな姿でテラスに涼んでいます。


 そこへオーギュスティーヌがやってきました。

「オーストリア皇帝陛下よりいただいた、トカイ・エッセンシアがありますが飲まれませんか?」


 アリアンロッドがお酒好きなのは、ネットワークでは有名です。

 トカイ・エッセンシアと聞いて嬉しそうな顔をしました。


「いただきたいわ♪」


 媚薬とまで云われるほど甘いトカイ・エッセンシアです。

 それを嬉しそうに杯を重ねるのですから、たちまちピンク色が漂い始めます。


 勿論オーギュスティーヌも御相伴。

「今晩は暑いですわね」

 などといって一枚、また一枚、服を脱いだりして……とうとうペチコート姿に……


「私、夫を亡くして久しく……」

 といって、アリアンロッドの手をとりペチコートの中へと……


 あっさりとオーギュスティーヌの体のうずきは、翌朝にはきれいさっぱりとなくなったのです。


「あら、簡単だったようね、どうしたの?」

「お手をとり、ペチコートの中へ……」

「おかしいわね、そのぐらいでアリアンロッド様が落ちるなんて?」


「じつは……」

 オーギュスティーヌは、トカイ・エッセンシアを散々に飲ませたことを打ち明けました。


 ……トカイ・エッセンシアってそんなに効くのかしら?……


 不思議に思い調べてみると、ブリュセル・BSM・ガールスクールの生徒たちとの歓迎パーティーの席で、あまりに生徒たちの挑発的な誘惑にムラムラしたようで、生徒に手をつけるのははばかれるのでビールを飲んで紛らわせたらしいのです。


 ストレスがたまっていたときに、ペチコートの中へいざなわれて……オーギュスティーヌなら致し方ない……との判断でことに及んだ……これが真相のようですね。

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