バウハウト城の管理人


 なんといってもオーギュスティーヌは美女。

 しかも病む前は聡明だった女、賢く美しく優しい賢婦人だったのです。


 テロワーニュさんは、オーギュスティーヌが、アリアンロッドの興味を引く存在と、踏んでいるのです。


 サブシャペロンのテロワーニュさんとしては、ブリタニカの女が寵妃に成れるかも知れないチャンスなんて、逃すはずがないのです。 

 

 テロワーニュさんとともに、アリアンロッドはオーギュスティーヌの部屋へ。


「なるほどね、心的外傷後ストレス障害ですね」

 アリアンロッドは、オーギュスティーヌを眠りに誘います。

 そして優しく抱きしめたのです。


 夫が生きているという、作り上げた記憶にかわり、もう死んでいるという記憶を、呼び戻したのです。

 そして自分は今ではそれを許容し、何不自由なく生活できている、居所がある……


 それに夫は不義理をし、自分はそれに対して失望していた……事実を認識させたのです。


 テロワーニュには、目覚めたオーギュスティーヌが、落ち着いてきたように見えました。


 そして、アリアンロッドはオーギュスティーヌの手を握り、

「ねぇ、そろそろ恋をしませんか、不誠実な夫に尽くす必要はないでしょう?」

 この一言に、オーギュスティーヌの顔に生気がよみがえったのです。


「そうですね、私は何をしていたのでしょう?」

「夫に裏切られたことを信じられなくて……互いに愛は醒めていたのに……」

「女性はこれから強く生きなければね、困ったことがあれば、私が相談にのりましょう、安心なさいな」

 

「ところでこの方の行く末だけど、このバウハウト城の管理人をお願いしようと思う」

「ベルギー王国が望むなら、アウグスタとして話ぐらいは聞いてもいいわよ」

「王国の体制保障なら、約束いたしましょう、それ以上は望まぬことです」


 ベルギー王国の希望は、ベルギーの永世中立を認めて欲しい。

 列強の争いに巻き込まれたくない、その保障がほしい……

 アウグスタがそれを約束したのですから、文句は出ないようです。


 結果的にバウハウト城は男子禁制、アリアンロッドの宮殿の扱いとなり、この宮殿の管理が、オーギュスティーヌに任されたのです。


「オーギュスティーヌ、落ち着いたようね?」

 久しぶりに訪れたテロワーニュ、生き生きとしたオーギュスティーヌを見て、ほっとしたようです。


 しかし生き生きとした理由が……


「私、恋をしています!」

 突然のオーギュスティーヌの言葉に、いささか驚いたテロワーニュ。

 不退転の決意が、表情に浮かんでいます。


「恋?相手は?」


 先ほどの勢いはどこへやら、恥ずかしそうに

「……」

 

「えっ、聞こえないわよ!」

「……アウグスタ……様……」


「恋というからには公妾?」


「はい!」

 今度は大きい声です。


 れっきとしたレディなのに、小娘のようなオーギュスティーヌです。


 ……やはりこうなるのね……分からなくもないけど……

 アリアンロッド様の前に出ると、女の下着はずり落ちるって、皆がいうけど、本当ね。

 目の前で見ると、信じられないわ、といっても私もですけどね。

 オーギュスティーヌも、例外ではないということね……


「公妾を望むなら、覚悟は出来ているわね」


「はい!」

 今度も大きい声でした。


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