第三章 オーギュスティーヌの物語 バウハウト城の管理人
テロワーニュの願い
オーギュスティーヌは十六歳で結婚した。
夫はオーストリア侯爵で、ハンガリーで情婦に殺されるという不名誉な死をとげた。
現実を認識できない彼女は徐々に壊れて、ついには軟禁される日々、そんな時、ついに救いの女神が現れた……しぶしぶだが……
そしてオーギュスティーヌは恋をした。
* * * * *
ベルギーの公爵令嬢、オーギュスティーヌは幼くして結婚した、十六歳であった。
夫はオーストリアの侯爵で、皇帝のハンガリー行幸に随員として付き従った折、暗殺されたのである。
一八七三年の晩秋の頃であった。
この暗殺者は美しい女性だったようだ。
ホテルの一室、ベッドの上で夫は頭を打ち抜かれ、女も同じ銃で死んでいた……
侯爵家の名誉のために情事の果ての無理心中は隠匿され、暗殺されたことになったのだ。
八年の結婚生活であったが、オーギュスティーヌは心より夫を愛していた……
そんな夫が出先で殺された……それも痴情のもつれから……
夫の死亡、それも女との情事の果てに……
オーギュスティーヌは現実を受け入れられなかった、いや受け入れたくなかった……
徐々にオーギュスティーヌは壊れていった。
「もうすぐ旦那様のお帰りよ、早く準備をしてね」
オーギュスティーヌは主人が帰ってくると堅く信じていた。
そして夜、ベッドの上で一人泣くのである。
一族の者も使用人も痛ましくて見ていられない……
とうとう医者の診断により、精神が病んでいるとなり、一族から見放されバウハウト城に軟禁されたのである。
一八七四年の春であった。
一八七五年のヨーロッパの戦争、その後のブリタニカの大変動も病んだ未亡人の生活は変わらない……
しかし、救いの手が差し伸べられる日がやってきた。
先日、オーギュスティーヌを見舞ったテロワーニュは、オーギュスティーヌの壊れ方が酷くなっていることに気が付いたのです。
もともとオーギュスティーヌの夫の母は、テロワーニュの遠い遠い親戚。
一族から見放されたオーギュスティーヌを気の毒に思い、ベルギー国王に嘆願し、バウハウト城に住めるようにしたのです。
テロワーニュはオーギュスティーヌの治療を『湯船の謁見』でアリアンロッドに願い出ました。
その結果、バウハウト城にアリアンロットがやってきたのです。
テロワーニュはバウハウト城の居間で女を待っていました。
「このシャトーを呉れるの?」
「治療代としてお受け取りくださいとのことです」
「でもね……その方を治すのはいいのですが後がね……」
「シャトーを呉れるということは、このままその方を保護してほしいということなのでしょう?」
「さすればまた代価が発生するのでしょう?」
「二回目の代価なんて押し付けられたら……他の女に殺されそう……」
「ベルギー王国とセパレイティスト・クラブの希望ですので、私たちの嫉妬はないはずです」
「そちらじゃなくてよ、知っているでしょう、ネットワークの影の実力組織を!」
「百合の会議のことですか?そちらの方は私では役不足です」
「もう!」
肩をすくめたアリアンロッドでした。
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