無邪気なスカウトの波紋


 アルジー・ドンカスター、当年二十歳の侯爵家の末娘、プリンセス・マーガレットと同い年、才色兼備で有名です。


 先頃プリンセス・リンダが、無邪気にセパレイティスト・クラブへアルジーを勧誘したことがありました。


 その話がジョージアナの耳に入り、その結果、ドンカスター侯爵本人がイギリス国王に呼ばれ、この話をどのように考えているか聞かれたのです。


「侯爵はどのように考えておられるのか?」

「娘次第と考えています」


「国家としては、セパレイティスト・クラブにイギリス出身者が増えるのは望ましい」

「またこの星の地位向上のためにも、出身者が増えるのは望ましい」


「アルジーはセパレイティスト・クラブがどのような組織か知りません」

「ましてリンダ様との軽い会話の中で出てきた話、二十歳になったばかりの世間知らず娘、判断に迷っているのでしょう」


「侯爵が勧めてはどうか?」

「娘の一生ですから……」

 どうもドンカスター侯爵は気乗りしないようです。


「分かった、では別の娘を考えよう」


 この話がマーガレットの耳に入ったのです。

 そして突然、マーガレットがドンカスター侯爵邸を訪問するといいだしたのです。


 勿論、ドンカスター侯爵が断るなんて非礼はありえません。

 お迎え準備に奔走することになります。


 当然、アルジー・ドンカスターも朝から待機しています。

 そんな緊張に包まれているドンカスター邸玄関に、マーガレットが運転するロコモービルが乗りつけたのです。


 黒いウイッチの上級軍服に身を包み、ミリタリーベレー帽の下から綺麗な髪がのぞいています。

 ブレスレット所持者ですから、折襟の上級軍服です。

 誇らしげにピンクゴールドのラインがあしらわれています。


 ブレスレットの効用なのでしょうか、服からのぞく真っ白の肌が黒い軍服に映え、すばらしく美しく見えるマーガレット。

 さらにはレディス・カレッジの軍服が良く似合っている、アシュレイが付き従っています。


 ドンカスター邸のメイドさんたち、マーガレットにうっとりとしていますが、年若いメイドさんたちはアシュレイに注目しているようです。


 ひょっとして……私たちでも……あの娘がカレッジなら……ひょっとして……レディス・スクールなら……


 なかには、

 ひょっとして……私もカレッジに……

 なんて方もいるようです。


「アシュレイさん、私はアルジーさんとお話があります、貴女はお茶でも呼ばれていてください」

 マーガレットは、アルジーさんを直接スカウトする気のようです。


「どうぞ、こちらへ」

 一人のメイドさんが、アシュレイをティールームへ案内します。

 使用人専用のティールームがあるのですよ、ドンカスター邸は。


「私は紡績工場で働いていたような身分です」

「お茶は嬉しいですが台所でかまいません、どちらかといえば落ち着きますので」

 ということでイレブンジィズに呼ばれたアシュレイ、瞬く間におしゃべりの輪の中に。


「アシュレイさんは、マーブルヒル・レディス・カレッジにどうして入学したの?」

 に、はじまり、色々と質問攻めに……レディス・スクールについては特に多かったようです。


 質問には丁寧に受け答えるアシュレイ。

 マーブルヒルで、ロコモービルを磨いていた話が大うけしていました。


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