セパレイティスト・クラブの主導権


 アシュレイ・スマイスがマーブルヒルに来てから8ヶ月、1880年の3月下旬。

 マーガレットが久しぶりに、マーブルヒルで優雅にお茶を飲みながら、ケイト・マッケンジーと話をしています。


「アシュレイ・スマイスの評判はいいようね」

「評判は上々ですね、優しいし、よく気がつく」

「メイブも最上級生、首席でしたね、優秀なのはアイルランド娘ばかりですか……」


「でもありませんよ、あちこちから自薦他薦が多くて、条件を公示していますので、優秀な方ばかりです」

「そうそう、リンダ様がお友達の、ドンカスター侯爵家の、末の娘さんを勧誘されていました」


「ドンカスター侯爵の末娘?アルジー?」

「はい、才色兼備で有名ですね」


「当年二十歳ですので、ジョージアナ様が希望するのであれば、ホステスに推薦するとおっしゃっておられましたが、どうも侯爵は気乗りしないようです」 


「アルジーさんなら……本人はどう思っているのかしら……」

「この間、増員する話を事務局に打診してみたら、ホステスなら何も意見はないとのこと、ガヴァネスもまぁ認めるということでした」


「コンパニオンは本人次第なのでしょうが……今がチャンスなのに……」

 何か考えているようなマーガレットです。


 話題を変えるように、ケイト・マッケンジーが、

「今度のマーブルヒル・レディス・カレッジの入学予定者は優秀ですよ」

「とくにスコットランドとウェールズの生徒の中に、有望な者が一人ずついます、アシュレイ・スマイスを入れて、将来の首席はこの三名の中からでしょうね」


「アメリカがセーラムに、相当力を入れているらしいわ」

「セパレイティスト・クラブの主導権を握ろうと、虎視眈々のようね」


「セーラムどころか、フランス・コロニーがレディス・カレッジを計画しているようです」

「テロワーニュ様が、女子グランゼコール設立を計画しておられました」


「先ごろ引退されたブロイ公爵が、今のフランス首相、ジュール・グレヴィ――フランス第三共和制第四代大統領、ここではフランス第三帝政が成立しているので、首相となっている、作者――に、セーヴル女子カレッジクラスの女子グランゼコール設立が必要と説き伏せているようです」


「もうすぐ設立されます、サントーギュスタン・ド・ラ・コングレガション・ノートルダム女子修道会運営の女学校を譲り受けたと聞いています」


「フランスのレディス・カレッジですか……こうなるとロシア・コロニーなど、他のコロニーも黙ってないでしょうね……」

「セパレイティスト・クラブとしては、歓迎すべきなのでしょうね」


「新しいレディス・カレッジが設立されるまでは、ヨーロッパの任官課程希望者は、マーブルヒルで受け入れる予定です」


「そうそう、レディス・カレッジ卒業生の、中原シティ高等女学校の女専課程編入は認められたわ」

「まだ発表は先だけど、お母様と二人で、連日お願いしたのよ、新設でないから、酷い抵抗はなかったけどね」


 そんな会話が交わされた翌日、アシュレイ・スマイスはケイト・マッケンジーから、

「マーブルヒル・レディス・カレッジに、この四月から入学です、いままでよくがんばりましたね」


「明日から下働きはありません、でもマーガレット様が一週間ほど滞在されますので、お世話をお願いします」

「少し早いですが、マーブルヒル・レディス・カレッジ生徒の扱いとします」


 マーブルヒル・レディス・カレッジ生徒らに支給される、色々な制服なども一式渡されたアシュレイ・スマイスです。


 とくに赤いトルマリン――ルベライト・トルマリン――がはめ込まれた、ピンクシルバーリングに感激したようです。

 いそいそと、規定の右小指にはめていました。


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