リンドバーグ家のクリスマス


 一八七九年の十二月のクリスマス・イブ。

 この日、マーブル・ヒル・ハウスはお休み、メイブも家へ帰るそうです。


「ねぇアシュレイ、クリスマスはどうするの?」

「なにも、お屋敷でくつろぎます、帰る家もありませんし」

「そう、じゃあ家に泊まりに来ない?」

「ご迷惑では?」

「かまわないわ、小さい家だけどね」


 メイブの家は両親と弟が一人、小さい靴屋を営んでいました。

  

「ただいま、お母さん、後輩を連れてきたけどかまわないわよね」

 母親は洗濯をしているようでした。


「かまわないよ、めずらしいわね、お前が友達を連れてくるなんて」

「アシュレイ・スマイスです、メイブさんには親しくしていただいています」

 

「アシュレイさんね、幾つなのかい?」

「十四です」

「家の馬鹿息子より二つ上かね」

 

 メイブさんたちリンドバーグ家はアイルランド出身で、お父さんがロンドンにでてきて靴屋の小僧として働き、独立してお母さんと結婚。

 仲良く二人で小さな靴屋を切り盛りしているのです。


「お父さんは?」


「ジョージをつれて七面鳥を買いに行っているわ、メイブも手伝ってね」

「任せてよ」

 

 クリスマスの晩餐はささやかでしたが暖かなものでした。

 

 クリスマスプレゼントですが、急に呼ばれたアシュレイは用意などなく、何となくためていたシュガーコーティングの粒チョコレートをプレゼントしたのです。


「アシュレイ、食べなかったの?」

「もったいなくて、それに腐るものでもないので、こんなもので失礼なのですが……」


「美味しい!」

 いつのまにかメイブの弟がチョコレートに手を出しています。


「もう食べているの!」

 メイブにガミガミと怒られる弟です。

「だっておねえちゃん、お土産などくれないもん!」


「もう、恥ずかしいのだから、今度から持って帰ってあげるわよ!」

「クリスマスだから嘘はだめだよ!」


「くっ」


 ご両親がかなり笑っています。


「とにかく早く食べましょう」

 とお母さんがいいます。 

 

 アシュレイ・スマイスは、久しぶりに暖かいクリスマスを迎えたのです。


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