マーブルヒルの日々 其の二


 あるとき、就寝前にメイブと一緒に入浴していると、マーガレットが入ってきました。

 二人は本日のお風呂当番で、この後掃除をすることになっています。


 早速に挨拶などする二人ですが、

「お風呂で無粋なことをしなくても良くてよ、お風呂で挨拶しなければならないのは愛人様たちだけ、チョーカーがゴールドの方だけよ」

「アリアンロッド様は別よ、私たちのご主人様ですからね」


 アリアンロッドの名を口にするとき、マーガレットがうっとりとしているのにアシュレイは気がつきました。


「お風呂の掃除、がんばってね」

 と、マーガレットが出て行った後、せっせと掃除をしメイブの部屋でナイトティーなどする二人。

 このような夕食後の仕事の場合、夜食としてマーブル・ヒル・ハウスで作られている特別なパンをくれます。


 これはアリアンロッドが一八七四年のクリスマスに作った、パンのレシピそのままに作っているもので、『ジャムパン』と『クリームパン』。


 マーブル・ヒル・ハウスの来客にお土産として配っているもので、案外に好評なのです。

 このマーブル・ヒル・ハウスにやってくるのは婦人客オンリーですから、それもあるのでしょう。


「疲れたからこの甘いパンが美味しいですね」

「アリアンロッド様のレシピだそうよ」


「私、アリアンロッド様にあったこと無いのですけど、どんな方かしら?」

「マーガレット様はあこがれているように見えましたけど」


「私は一度だけ見たことがあるわ、マーブルヒル・レディス・カレッジって、出来てから日が浅くて途中入学が多いのよ」


「私も途中入学でね、メイドとしてアリアンロッド様のお部屋付きを一日命じられたの」

「お部屋を掃除していると突然アリアンロッド様がやってこられたの、信じられないほどお綺麗だったわよ」


「マーガレット様って公妾様でしょう?そりゃあ、そうなるわよ」

「私だって出来ればお側に仕えたいと願っているわ」

「入学条件に身も心もささげることってあるけど、アリアンロッド様に出会えば当然と思うわよ」


「メイブさんでも一度だけなのですか?」

「お忙しいみたい、行ったことはないけど、ニライカナイってところに行くとお目にかかれることが多いと聞いたわ」

 

 アシュレイは初めて、アリアンロッドという女を身近に感じたようです。

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