第二章 マーガレットの物語 プリンセスのスカウト

大英帝国の姫

 大英帝国の姫、コンパニオン、格子、プリンセス・マーガレットは、グラスゴーのホテルで優雅にお茶を飲んでいた。

 いま彼女は、ニライカナイより帰ってきたところである。


 レイルロードに乗り、ネットワークの脅威の世界を垣間見た今、マーガレットはしみじみと母、ジョージアナの慧眼に感心するばかり。


 世界は救われた、しかしネットワーク内の地位を上げなくては……その為にはこのイギリスを……


* * * * *


 大英帝国の姫、コンパニオン、格子、プリンセス・マーガレット。

 瞳の大きな細身の美女で、どこか知的な風貌を漂わせている。


 1879年の七月、マーガレットはニライカナイよりマーブル・ヒルに戻ろうとしています。


 ブリタニカ・ステーションまでレイルロードを乗り継ぎ、さらに宇宙往還機のUS―5『晴空』で、スコットランドのローモンド湖の発着所までたどり着いた。


 ここにはグラスゴーから、専用の鉄道が敷かれ、先ごろ開通と同時に、当初のネス湖臨時発着場からここへ切り替わったのです。

 マーガレットもニライカナイへ行くときは、ネス湖からでした。


 宇宙往還機のUS―5『晴空』は、現在一週間に一往復、なんせセパレイティスト・クラブ所属の女以外は、乗るものがほとんどいない。


 建前は一般解放はされていますが、発券にあたり、かなり身元を確かめられます。

 政府高官とか伯爵クラス、大商人などしか乗れないのが現状なのです。

 

 宇宙往還機のUS―5『晴空』の発着所は、ある意味、観光名所になっています。

 人々は見たこともない、宇宙往還機を見に来るのです。


 また、ここには、ネットワークの物産がいくつか販売されています。

 とくにブリタニカ・ステーションで生産されている医薬品などが好評です。


 結構混雑している発着所から、新設の鉄道でグラスゴーへ、ここで一泊して、翌日ウェスト・コースト本線を走る、デイ・スコッチ・エクスプレスに乗車することになっています。


 マーガレットは一人で旅しています。

 本来プリンセスなのですが、ネットワークでウイッチと呼ばれる女たち、つまり女官は一人で何事もできるのは常識。


 どこの世界のプリンセスでも、侍女などつけてはくれません。

 これは二人のシャペロンでも同じことです。


 マーガレットは、公式のウイッチの制服の一つ、上級軍服などを着用しています。

 この上級軍服は、寵妃用の立折襟式開襟と寵妃見習用の折襟に分かれます。


 格子であるマーガレットは折襟。

 格子の証である、ピンクゴールドのブレスレットは隠れてしまうのですが、袖口などの飾りのラインに、該当のカラーが入っています。

 マーガレットの制服には、ピンクゴールドが入っています。


 ウイッチの制服、とくに軍服を着れば、一目でマーガレットがどのような立場の女か分かります。

 警備上、これが必要なのです。


 このブリタニカでアウグスタの女、まして公妾に手を出すことが、どれほど危険かは、アウグスタ戦争の結果が示しています。

 

 こうなると恥ずかしいわね……


 マーガレットは、何とか午後の三時に、グラスゴーのホテルへたどり着いたのです。

 

「夕食は六時にいただくわ、早めのミッディ・ティーブレークにしてください」

 ホテルに到着すると、さっそくフロントクラーク――受付係――にこんなことを言ったマーガレット、やはりお茶は好きなようです。


 グラスゴー……

 スコットランド屈指の大都市、造船と綿工業で繁栄を謳歌している町。

 ホテルの喫茶室は通りに面していました。  


 色々な人が行きかっています、概ねアイルランドからの移民が多いようです。




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