第44話 チェトは死守します!
この洞窟は、一直線みたいだ。但し上り坂。これ絶対掘ったんだよね? 凄いなぁ。たぶん一時間以上は歩いた。そして出口だ。
「まぶしぃ」
洞窟の中にはたいまつがあって明るいとはいえ、外とは明るさが違う。だいぶ登ったらしく見晴らしがいい。
「あと一時間、道なりに進めばお陀仏だ」
「……え? なんで?」
前を歩く賊が言うので聞くと、振り返ってにやっとした。
「供物だよ。お前達はな」
「く、くもつ? って、何?」
「お前な……お供え物みたいな意味だ」
「……え? 僕達が?」
「ようは、魔物がいるんだろう? それを従えるのにエサを与えるって事だろう。まさか売る為じゃなくて、その為に奪ったなんてな」
「じゃ、馬車に乗っていた人って食べられちゃったの?」
「かもな」
「どうしよう。チェトが食べられちゃう」
「俺達もだろうが!!」
「お前達、随分と余裕だな。まあそのガキは、よくわかってなさそうだがな。かわいそうにな。使えないスキルで仕方なく冒険者になったのに、最後は食べられちゃうなんてな」
スキルはあれだけど、冒険者はなりたくてなったんだ。
「僕にはちゃんと夢があるよ。魔法持ちの人と冒険するんだ」
「ほう。だったら俺達を倒してみせな。じゃなきゃ、その夢は叶えられないな。夢は必ず叶えられるものとは限らない。いや、叶えられない時の方が多いだろうな。お嬢ちゃんには無理だろうけどな」
「お嬢ちゃんじゃないけど!」
「ふん。ガキなんだからお嬢ちゃんで十分だ」
「え~」
「もうお前は黙ってろ」
隣でため息をついてユイジュさんに黙れと言われた。なんで?
賊って、ガキだったら男でもお嬢ちゃんって呼ぶんだ。なぜ、お嬢ちゃんか謎が解けたよ。
それにしてもチェト大丈夫かな? 洞窟内で寝てからまだ起きない。また無理させちゃったもんね。
賊が言った通り、一時間程で頂上ら辺に着いた。ちょっとごつごつした岩があって、木が無い場所だ。だから風が強い。
そこには馬車が数台あった。馬車に乗っていただろう人達が、縄で縛られている。賊の仲間も数名いた。
そして、馬車の中に積んであっただろう肉などが外に出されている。
「かわいそうに。あんな子供まで」
チェトをかわいそうだと、馬車に乗っている人が呟いたのが聞こえた。僕もそう思うよ。
って、あれは何の動物だろう?
ちょっと離れた所にうずくまって寝ている動物がいた。
ヒョウの様にも見える真っ黒い動物。強風が吹く度に、体の毛が青黒くさざ波立つ。美しいっていう感じ。
あぁ。チェトとは違ったモフモフ感に違いない。触りたいな。
「あれはなんだ……」
ユイジュさんが呟いた。ユイジュさんも知らない動物らしい。
「おい。その男も縛っておけ。さてお嬢ちゃん、その子犬渡しな」
「いやだい! 絶対にエサになんてさせない!」
「エサになるのはお前だ!」
「え? 僕?」
「あぁ、そうだ。あそこにある肉などをあの聖獣の前に持って行け」
「聖獣だと!?」
ユイジュさんが驚いて叫んだ。賊がまたにやりとする。
あれ? セイジュウってチェトと同じ? でも犬ではないよね? 見た目は犬より猫っぽい。
うーん。スキル持ちの動物をセイジュウって言うのか。
あ、じゃ。チェトみたいにお話出来るかも!
「あれを持って行けばいいんだね。わかった」
「おい、待て。少し躊躇しろ」
もうユイジュさんはいつも煩い。
捕まっているんだから静かにしないとダメじゃない?
「お前は、黙ってろ」
「っつ」
ほらど突かれた。
「度胸があるというよりは、状況を理解してないみたいだな」
にやりとして言ってるけどわかってるもん。
あの子は、お腹が空いているって事だよね。あの子と言っても僕よりは大きいけど。
チェトはどうしよう。地面ごつごつしているけど。あ、そうだ。
「ちょっと、チェトをお願いね」
「はぁ?」
僕はユイジュさんの膝の上にチェトをおいた。見張りの賊が驚いて身構えたけど、チェトを攻撃されなかった。よかった。
さてと、運ぶかな。
お肉だけ運ぼう。お魚は、お家に持って帰りたいし。
そういう事で、木箱の中をチラッと確認して、お肉だけを積み上げた。
「おい。待て。それを持つ気か?」
ユイジュさんが聞くけど、お魚も持って行けって事かな? でもそれは黙ってて。
僕は、木箱が自分の背丈よりあるけど、ひょいと持ち上げた。
「バカ! 何やってる!」
まだユイジュさんが騒いている。
「はぁ?」
周りがざわめいている。もうユイジュさんが騒ぐから、魚を持ってない事ばれたかも。気づかないフリをしよう。
うんしょ。積み過ぎた。重くはないけど、バランスが難しい。おっとっと。しかも地面がごつごつとしているから歩きづらい。二つに分ければよかったかな。なので、よろよろして近づく。
――『バランス』の条件が整いました。『バランス』を作成しますか?
およ? スキルだ。
「はい」
――『バランス』のスキルを取得しました。
おぉ!! あんなに不安定だったのに、全然グラグラする感じがなくなった。スキルって本当に凄いよね。
「よいしょっと」
荷物をセイジュウの前に降ろした。
――『置く』の条件が整いました。『置く』を作成しますか?
え? 置いただけでスキルが……なんで?
『置く』――安定が悪い場所に積み上がった物を置く
が条件だった。なるほど。
「はい」
――『置く』のスキルを取得しました。
「あ、ここでいいですよね?」
そう言って賊に振り返ると、あんぐりとしていた。
そんなにバランスよく置いたのが凄かったんだね。
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