第45話 ごわごわしていたからブラッシングしただけです

 とりあず一番上の木箱を下ろし、蓋を開けた。うん。生肉だ。これあげたらお腹壊さないかな?


 と、セイジュウを見たら尻尾が動いた。うん? ううん?

 僕は四つん這いで尻尾に近づいた。

 細長い尻尾が三本・・動いていた!


 「三本もある!! 何これ、すご~い。ねえ、ユイジュさん見て尻尾が……」


 ユイジュさんに振り返ると、捕まった人も見張りの賊もそしてユイジュさんも固まっていた。


 「おまえ……逃げろ」


 「え? 逃げろ?」


 何となく黒い物体が動いたとセイジュウに振り返ると、顔を上げたセイジュウと目があった。

 あ、起きたんだ。


 『いい匂いがするわね』


 「それ食べれる? 生肉だけど。お腹壊さない?」


 『あら、私の心配をしているの?』


 僕はそうだと頷いた。


 『面白い人間ね。生肉は好物よ』


 「そうなんだ。でもそれ、本当は売り物なんだよね」


 『そう。だったらその腰に付けている袋の中身をもらおうかしら』


 「うん? 袋? あぁ、これか……」


 巣から持ち帰った鉱石だ。

 セードさん曰く、劣化した鉱石で小さいしランク落ちらしい。つまりFランクの価値すらない。だけど、これをチェトが食べたいといいだした。

 チェト曰く、人間が扱う魔力と違う魔力が含まれていて、チェトにとってうまうまらしい。

こんなの食べたらお腹壊しちゃう。なので、チェトが食べちゃわない様に、腰につけておいている。


 きっと食べ物が入っていると思ってるんだね。


 「あのね、これは食べられない物だよ。ただの劣化した鉱石」


 一粒手に乗せて見せた。セイジュウは、それをジッと眺めている。


 「ね。食べ物じゃ……え~~!!」


 突然ペロッと、僕の手を舐めた。というか、鉱石を食べちゃった!

 まわりも騒然としている。


 「ぺ! ぺ、しなさい!!」


 僕は、大きな顔にしがみつき、口を開けさせようとした。ペロッと口をめくると大きな立派な牙が見える。

 わー凄い。


 「バカ! 離れろ!」


 ユイジュさんが、また叫んでいる。振り返ると、片膝を立てていた! チェトが膝から転がり落ちている!!


 「ちょっと! チェト転がっちゃってる! 怪我したらどうするのさ!」


 「それどころじゃないだろう! 食われるぞ!」


 「もう食べられちゃったの!」


 「はぁ?」


 『なんだ? 何ごとだ?』


 「あ、チェト、ごめんね。痛くなかった?」


 チェトが目を覚ましちゃった。

 むっくりと立ち上がってこっちを見ている。そして、僕の方に駆け出した。


 『おぬし小さくなったな』


 『それはあなたでしょう。消滅する寸前までいったようね。もしかして、この子が庇護者。そう……なるほどね』


 二人が会話をしている。って、知り合いみたい?

 うん? このセイジュウってもっと大きかったの?

 それにしても……。


 「見た目と違って、ごわごわの毛だね」


 『仕方ないでしょう。そこまで維持できないのよ』


 「そうだ! ちょっと待って」


 僕はリュックを下ろした。

 リュックはチェックされたけど、何も入ってないと自分で持てと言われてリュックは背負っていたんだ。この中に、チェトをブラッシングするブラシが入っている。それを取り出した。


 『それは、われのではないか!』


 「ちょっと貸してね。だって、ごわごわでかわいそう。あ、そうだ。今日帰ったら新しいブラシ買ってあげるから」


 『ならいいだろう』


 僕は、セイジュウの背中にブラシを走らせた。


 『あぁ……いいわぁ』


 「気持ちいい?」


 『えぇ。あなたブラッシング上手いわね』


 「そう? あ、スキル覚えたからかもね」


 僕は、反対側にも周り、ブラッシングする。


 『われもそれでいいので、買う前にブラッシングしてほしいぞ』


 「うん。いいよ」


 「な、なんだ。あのガキは!!」


 賊が叫んでいる。

 あ、そうだ。お肉を食べさせなきゃいけないんだっけ? でもなぁ。生肉を食べさせたらお腹壊しちゃう。

 って、チェト!?


 「こらぁ! チェト! 何、食べようとしているの! それは売り物だよ!」


 僕は、ガシッとチェトを掴まえた。


 『われは、お腹がぺこぺこなのだ! 働いただろう? ご褒美はないのか?』


 「もう。仕方ないな。お魚をあげるよ。僕の家に来る分の中からなら大丈夫だよ。きっと」


 『いや、魚は……』


 「あ、あのガキを捕まえろ!」


 振り向くと僕を指差していた。

 え? 魚もダメみたい。


 「あ、ごめんなさい」


 『煩い人間ね』


 むくっとセイジュウが起き上がり、命令通り僕を捕らえに来た賊の仲間を器用に尻尾で捕まえると、ポイッと親分さんだと思われる賊に放り投げた。


 「「わぁ!!」」


 賊は、重なり合って動かなくなった。大丈夫かな?


 「おいおい、まじかよ……」


 ユイジュさんが、賊を見て呟いた。


 「と、とりあず、ロマド。俺の縄を解け!」


 「あ、うん。わかった」


 言われた通り解く。

 ユイジュさんが、捕まっていた人の縄も解く……。


 「……くそ。固いな。これ解けるか?」


 ユイジュさんがそう言うので、他の人のも解いた。


 「……なぜおまえが解けるんだ」


 解けと言っておいて変な事をユイジュさんが言っている。


 「あ、スキルかも。解くと結ぶを覚……うぐ」


 「だからそういう話はするなと言っているだろう」


 ユイジュさんに口をふさがれた。


 「ぷはぁ。苦しいからそれやめて」


 「いいからこれで、きつく賊を縛ってこい」


 ユイジュさん達を縛っていた縄を渡された。何故僕が……まあ、いいけど。

 グルグル。キュ♪


 って、僕達で賊を捕まえちゃった!?

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