第43話 塞いでいたモノは……

 『おい、大丈夫か?』


 チェトが聞こえないのにユイジュさんに話しかけている。

 変だな? ユイジュさんを僕が運んだから疲れてないハズなのに、ユイジュさんは何故かぐったりして座り込んでいる。


 僕より走るのが遅いので、持ち上げるスキルを使ってユイジュさんを担ぎ、ダッシュで山を登った。

 初めギャーっと言っていたユイジュさんだけど、慣れたのか大人しくなったんだけどなぁ。


 「お、お前なぁ……。俺は荷物じゃないぞ! 死ぬかと思った」


 「え~。楽ちんだったでしょう?」


 「女みたいな格好をした奴に担がれて、楽ちんだと誰が喜ぶか! いい笑いものだ!」


 「だってぇ……。わかったよ。ここからは自分で走って」


 「もう遅いっていうんだ。あぁ……もう冒険者の街に行けない」


 そんな事ないと思うけどな。気にしすぎ。


 「で、どっち?」


 「こっちだ」


 ユイジュさんは立ち上がって、道案内を始めた。僕は、チェトを抱っこする。

 走っている時は、冒険者といっぱいすれ違ったのに、こっち側には誰も居ない。やっぱり賊はこっちにいないのかな?


 「お? ユイジュじゃないか?」


 「……あれ? ツオレンさん。こんな所まで確認をしに?」


 「お前も参加したのか? へえ。ってそいつを連れて?」


 「えぇ。まあ……」


 「そっちは大きな岩で行き止まりだったぜ。まあ確認するならどうぞ」


 ツオレンさんの他に二人の冒険者がいるけど、僕をジロジロと見ている。


 「うーん? 男の子?」


 「と、犬?」


 「相手は賊だ。気を付けな。じゃーな」


 ツオレンさん達は、軽く手を振り去って行った。


 「はぁ……。行き止まりだってよ」


 「うん。行ってみよう」


 「行くのかよ!」


 僕達は、ツオレンさん達が来た方へと進んだ。なんとなく霧がかかっている。右側が絶壁の岩山。見上げれば凄く高い。頂上まで続いているのかも。左側を向けば、深い森。薄暗い。


 進むとどんどん霧が濃くなっていった。そして、目の前に大きな岩が現れた。完全に道を塞いでいる。馬車が向こう側に行くのは無理だ。


 「これいつからあるのかな?」


 「わからないけど、一旦隠れる為にそっちに行ったのなら賊達も災難だなってとこだ」


 確かに戻ってこれないもんね。


 『洞窟で迂回したのではないか? なんとか馬車が通れる大きさだろう』


 「うん? 洞窟? あるのそれ?」


 『あっただろう?』


 「うーん。霧で見逃したかな?」


 「洞窟? チェトがそう言っているのか?」


 「うん。馬車が通れそうだって」


 「だったら案内してもらおう」


 チェトが少し戻る様に言うので戻った。そして絶壁の岩山の前だ。


 『ここだ』


 僕には、霧の合間から見える先には、洞窟は見えないんだけどなぁ。


 「ここにあるっていうけど、ユイジュさん見える?」


 「いや。俺にはあるようには見えないな」


 そう言って崖に手を伸ばす。


 「いや、岩だな」


 『なるほど。結界だな』


 「え? 結界?」


 「結界だと? 待て。賊がそんな事出来るとは思えない。いやスキルは持っているだろうけど、結界が使えるならうまく行けば国家職につけるんだぞ?」


 『もしかしたらロマドの様に、始めはわからないような変わったスキルだったのかもな』


 「なるほど。でも結界があったら入れないよね?」


 『いや、われなら壊せるが……』


 「え? 壊せるの?」


 「壊せると言っているのか?」


 ユイジュさんが聞くので頷いた。


 「だったら頼め」


 「壊してだって」


 『よいが、相手に知られる可能性がある。それでもよいか?』


 「あのね、相手に知られるかもって」


 「あぁ。かまわない。本当にあるのなら賊はその先だ」


 『では……』


 「いや、待てよ。応援を呼んだ方がいいか」


 『よし、もう行けるぞ』


 「あ、本当だ。洞窟だ! 見えるよ。チェト凄い! えらいえらい!」


 『これぐらい朝飯前だ』


 「……待てというのが、間に合わなかったか」


 「うん? 何? 行こう」


 「いや、待て。応援を呼ぼう。ここにるのは確かなんだから俺達だけじゃ無理……って、聞けよ、おい!」


 わあ。凄い。ちゃんとたいまつが壁に設置してあって明るい。


 「お前なぁ……」


 「見つかっちゃたようだな」


 「あ……賊の人?」


 「お嬢ちゃん。犬のお散歩コースにしては、いささかハードだね」


 もう、フード被ってないのになんで女の子と間違われるんだ。あ、薄暗いからか。


 「やばいな。逃げるぞ」


 「え? なんで? お魚は?」


 「バカか! 勝てる訳ないだろう!」


 「逃がすか!」


 『あぁ。また結界を張られたな。われは、魔力切れでしばらくは壊せないぞ……』


 「え!? そうなの? 具合は?」


 『心配してくれるのはありがたいが、今は自分の心配をした方がいいぞ』


 「っち。結界を張られたか」


 ユイジュさんが、振り向いて言った。そこは行き止まりの様に見える。


 「一緒に来な。お前達もエサにしてやる」


 「エサ!? 賊って人間も食べるの!?」


 「このガキの頭は大丈夫か?」


 あ、そっか。チェトを食べようとしているのか! 絶対にそんな事をさせない!


 「今の所、すぐに殺す気はなさそうだ。とりあえず洞窟の外に出るまでおとなしくするぞ」


 ボソッとユイジュさんがささやいた。


 『我もそれに賛成だ。ただ、外に出ても逃げられる保証はなさそうだがな』


 賊の仲間が二人も出てきた。後ろからナイフを突きつけられ、僕達は歩かされた。僕のナイフもユイジュさんの剣も取り上げられちゃったよ……どうしよう。

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