第42話 お金の為じゃなくお魚とお肉の為に

 僕は冒険者の街に来た。


 「なんでまた、冒険者の街なんだ?」


 「え~。だって。ダダルさん、依頼受けさせてくれないでしょう」


 「それがわかっていてこっちかよ。抜けているようでそういう所は、しっかりしてるんだな」


 「うん!」


 「うんじゃない……はぁ。まあ、いい。こっちでも無理だろう」


 「うん? 何?」


 「なんでもない」


 ユイジュさんの独り言が増えた様な気がする。


 冒険者商会に入った。建物内にいる冒険者が少ない様な気がする。


 「あの、賊退治の依頼ってありますか?」


 「おぉ、君か。うん? その人が連れかい?」


 前に受付した時の人だ。クイッと顎で示すので振り返ると、ユイジュさんの事だった。ユイジュさんは、どうもと軽く頭を下げた。


 「君、Eだったよな。今回は、Dランク以上という規制がかかっていてな。連れはランクいくつだ?」


 「Dです!」


 「お前な……。はい。一応Dです」


 冒険者カードをユイジュさんが提示すると、受付の人が、オッと声を上げた。なんだろう?


 「向こうに残った冒険者じゃないか。へえ、これまたなんで、賊退治に参加?」


 「俺は行きたくないんですがね、こいつが張り来ちゃって」


 「そうかい。まあ頑張りな」


 「え!? 受けさせる気ですか? 俺、賊退治なんてしたことないですが……」


 って、ユイジュさんが焦っている。もしかして怖いの?


 「何言っているんですか。この前だってDランクのあの仕事、その日の内に終わらせてたじゃないですか。いやぁ驚いたよ」


 「………」


 「じゃ、宜しく頼むよ」


 僕は、ルンルンで建物の外へ出た。


 「えへ。やったぁ。仕事の残っていてよかった」


 「残っていたんじゃなくて、条件が合えば制限なく受けられるんだ。但し、争奪戦の様なものだ。協力しあうのもありだが、報奨金が高いからな。腕に自信があるメンバーは、そのチームだけでやるだろうな。受けた所で、俺達には不利。というか、無理だ!」


 はぁっと、ため息交じりで教えてくれた。


 「へえ。そうなんだ。じゃ、取り返してくれているかもしれないんだね! お父さんのお魚、その場で持って帰れるかな?」


 「そんな事、出来る訳ないだろう。そういうわけで帰るぞ」


 「え? 受けたのに?」


 「俺の話を聞いていたか? 行ってももう終わってるだろうし、お魚もその場ではもらえない。今日の夕飯を何か買って帰ればいいだろう」


 「え~!! でもアジトも見つかってないみたいだし。お魚くさっちゃったらどうすんのさ」


 「馬車ごと盗んでいるからそれはないだろう」


 「なんで?」


 「腐らないようにするスキルとか錬金術もあるんだ。そういう専門の馬車って事。つまり荷物は自分達で食べるのに奪ったのではなく、どこかに売り裁くつもりだろうな。まあ、アジトに居ればいいが、違う場所に行っていれば、アジトを見つけた所で、魚も肉もないな」


 「……それじゃ困る。お父さんの魚がないと、暮らしていけない」


 「それってお金の心配か? だったら10万入っただろうが」


 「あ、そっか」


 『だがしばらくは、お金があっても肉も魚も手に入らないな。まあ肉は、モンスターを狩ればいいが……』


 そっか。お金があってもダメなんだ! 馬車ごと取り返せばと言う事は、馬車が走れる様な場所じゃないとダメだよね? でも馬車は見つかってない? トンネルとか?


 「おい。だから肉を狩るならモンスター退治手伝ってやるから」


 「退治……する! お父さんの魚取り返す!」


 「だから……」


 「怖いならユイジュさんはいいよ。僕のこだわりだし。お母さん楽しみにしているんだ。食べた感想を手紙に書いて送っているのに、送れないじゃないか!!」


 「……はぁ。わかったよ。でも他の人達が助け出すと思うけどな」


 「うん。それならそれでいいんだ。馬車ごとなら道が無い森の中は無理だよね? だったらトンネルかなって思うんだ」


 「突拍子もない考えだな。この山にトンネルなんてないぞ。あっても裏道だ」


 「裏道?」


 「道と行っても道がある訳じゃなく、切り立った岩山と森の間に木々ないんだ。だから岩山に沿って走ればいいけど、ぐるっと回るコースだ。しかも街に下りるのではなく、登るコースだからないと思うが」


 「じゃ、そこに行こう!」


 「はぁ? 今の話聞いていたか?」


 「うん。みんなが調べない所を調べようって事だよ。真っ直ぐつっきっていこうよ」


 「……それが出来るのは、お前だけだ。どうやって崖を登るんだ」


 「あ、崖があるんだ? 下りるのはあるけど登るスキルはないな」


 「はぁ……どうしてこう能天気なんだ。お前、もし万が一賊と出会ったらどうするんだ?」


 「木に登る!!」


 「それって逃げるって事か? 俺は登れないんだぞ! それに火を放たれたらどうするんだ」


 「え? 火事になっちゃうよ?」


 「……なるけどするかもしれないだろう?」


 『とりあえず早く行って戻って来よう。出くわさなかったら帰りがてら、モンスターを狩ってお肉をゲットだ』


 「うん。そうしよう」


 「待て。そうしようってなんだ?」


 「帰りにモンスター狩ろうだって」


 「はぁ……。だったら今狩って帰ればいいのに……」


 ユイジュさんが、まだぼやいている。

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