第33話 怖がりな力持ち

 ほーほーほー。

 ふくろうさんの鳴き声が聞こえます。って怖いよう!


 「チェト~大丈夫?」


 『我は大丈夫だが……。おぬしはもう少し、計画性を持った方がいいな』


 「ぎゃ!」


 何かにつまずいて、思いっきり転んでしまった。

 真っ暗過ぎて目が慣れても何も見えない。くすん。


 『大丈夫か?』


 「うん」


 僕は地べたにぺたんと座り頷いた。


 「チェト~!」


 チェトを掴まえて、ぎゅ……うん?


 「ぎゃ~!!」


 それはチェトじゃなかった!


 「チェト~~! どこ~!」


 『落ち着け! 我は横にいる』


 「今の何!」


 『弱いモンスターみたいだな。おぬしが放り投げたから……この世から消え去った』


 「あ、そう言えば、驚いて放り投げちゃった」


 僕は辺りを見渡した。見えるわけないけどね。


 『一ついいか』


 「何?」


 『灯りはないのか? 我は見えるがロマドは無理だろう?』


 「うん。ほとんど見えないね。夜に行動する予定がなかったから持ってないよ」


 『だったら買ってからくればいいものを』


 「う……」


 そもそもそんなお金があったらこの仕事は引き受けてないんだよね……。

 って、モンスターも本当に出るんだ。


 「うわぁん。もう嫌だよう」


 『われもまだ魔力はほとんど戻ってないが仕方がない……ライト!』


 「え?」


 目の前にほのかな光の玉が浮いている。


 「何これ!?」


 『光魔法だ。われが出した魔法だから、われと一緒に動く』


 「凄いよ! さすがチェト! ありがとう」


 『わかったから行くぞ』


 「うん」


 落とした荷物を拾い頭の上に乗っけて、僕達は歩き出した。

 この魔法いいなぁ。僕も覚えたい。

 でもそんなスキル名なかったから携帯ランプを買わないとダメかもね……。って高いから無理だよね。


 行きより時間はかかったけど何とか森から出れた!


 「ありがとう、チェト。助かったよ」


 『そうか。よかった』


 そうチェトが言うと、光は消えた。


 『悪いがその上に乗っていいか? 出来れば暫くは歩いてくれ』


 「うん。いいけど……」


 って、チェトがふらふらだ!

 もしかして魔力切れってやつかな? 僕もふらふらになったもんね。


 「ごめんね。チェト。やっぱり携帯ランプは買うよ」


 『そうか』


 そっと、ロープの上にチェトを乗せる。


 「ゆっくり移動するから寝ていていいよ」


 『って、おぬしは何をしている!?』


 「え? だって万が一落ちたら困るから」


 『だからといって我をロープにくくりつけるとは何事だ!』


 「大丈夫! そんなに強く結んでないからね」


 『ね、じゃない!』


 「よしと。おやすみチェト」


 よいしょと荷物をチェトごと頭まで持ち上げる。


 『大丈夫だからほどけ!』


 「だ~め。危ないからね」


 『どうしてこういう時は、融通が利かないのだ~!』


 さてと、ちょっとだけ早歩きで帰ろう。

 あまり揺らさないように……。


 それにしても誰もいないなぁ。当たり前だけど。走らないと朝になったりして……。


 ――『忍び足』の条件が整いました。『忍び足』を作成しますか?


 「ほえ? 確かに静かに歩いたけどさ……はい」


 ――『忍び足』のスキルを取得しました。


 あ、そういえばチェトが静かになった。

 そっと荷物を下ろして見てみると、スースーと寝ている。余程疲れたのかも。ここまで付き合わせちゃったし、魔法も使わせちゃったからね。


 「ごめんね、チェト」


 さて、チェトが寝てるうちに走っちゃえ!

 僕は、朝になる前にとダッシュして冒険者の街へと向かった。



 「チェト、起きて」


 『うーん……ここは?』


 「街の前だよ。体痛くない?」


 『大丈夫だ』


 「よかった」


 走ったおかげで、朝にならずにすんだ。真夜中だけどね。

 冒険者の街は、真夜中でも明るい。


 荷物を頭に乗せ街の中へと入ると、昼間より酔っ払いの冒険者が多い。


 「そういえば、冒険者商会開いてるかな?」


 『24時間やっているのだろう? だったらやっているだろう』


 「うん。じゃないと早く帰って来た意味がないからね」


 冒険者の館はやっていた。

 って、滅茶苦茶賑やかだ。奥の方は夜は酒場になっているらしく酒臭い。


 「うん? おや大きな荷物だな」


 「あ、えーと。鳥の巣です。今日受けたんですけど……」


 昼間の人と違う人が、カウンターにいた。


 「……そ、そうか。確認しよう」


 「はい」


 袋をロープごとカウンターに置いた。


 「うを……きみ……見かけによらず力があるんだな」


 袋を持ち上げたけど、結局床に置いたみたい。


 「なんだこれ、解けない!」


 カウンターからちょっと乗り出して見てみると、僕が結んだロープの事だった。

 おかしいなぁ。そんなに強く結んでないんだけど。


 「あぁ、きみ、ちょっと中に入って来ていいから解いてくれないか?」


 「え? 僕?」


 おじさんが頷くので、カウンターの中に入りロープを解いてあげた。


 「……何かコツがあるのか?」


 ボソッとおじさんが呟いた。


 「うを……」


 今度は袋から鳥の巣を取り出すのに苦労しているみたい。


 「取り出しましょうか?」


 僕が聞くと頷くので、取り出してあげた。入れる時より簡単に出来た。やっぱり下が平らだと何事もやりやすいよね。

 って、何故かおじさんは驚いている。


 「きみ、女の子なのに本当に力持ちだね」


 「え……」


 なんでかまた、女の子と間違えられた。このかわいいたれ耳フードのせいかもしれない。

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