第31話 悪戦苦闘の末

 うんしょ。うんしょ。

 大きいから持って歩くのも大変なんだけど……。


 「うーん。手がだるくなってきた……」


 『自分より大きな袋だからな……。で、なぜに鳥の巣などを取りに行くのだ?』


 「え? だって木の上なら安全じゃない?」


 『一ついいか? 木の上がもし安全であったとしても、それまでの道のりは安全ではないだろう?』


 「……あ、本当だ!」


 『はぁ……まあいい。いざとなったら我が何とかする』


 「え? 何? ごめんね。今色々と……おっとっと」


 チェトと会話する余裕もないよう。


 ――『持つ』の条件が整いました。『持つ』を作成しますか?


 うん? やったぁ! よくわかないけど覚えた!


 「はい」


 ――『持つ』のスキルを取得しました。


 「あ、持ちやすくなった。そうだ!」


 持つ事に関するスキルないかな?

 『背負う』――大きな物を背中に乗せて五分間移動する。


 よし、これだ。

 僕は、袋を背中に乗せた。


 「うんしょ……」


 『おぬしはある意味、凄いな。注目されても全然気にしないのだからな』


 「え? 注目?」


 辺りを確認したいけど、重いから腰を曲げてないと無理。

 頑張ってよろよろと五分間歩いた。


 ――『背負う』の条件が整いました。『背負う』を作成しますか?


 「はい」


 ――『背負う』のスキルを取得しました。


 「すご! 軽くなった!」


 これで走れる! よかった。


 「で、なんだっけ? チェト」


 『うん? いや何でもない。それより腰は大丈夫なのか?』


 「うん。平気だよ。心配してくれてありがとう。じゃ行こう!」


 僕は、もらった地図を頼りに走り出した。


 『待て! ここから走るのか? 街から出てからでなくていいのか?』


 「あ、そうだね。人にぶつかるかもね!」


 『いや、そうじゃないんだが。まあそういう事にしておこう』


 チェトにアドバイスをもらい、街の外から僕達は走り出した。袋が風を受けて走りづらいったらありゃしない。


 これ、引っ張ったらダメかな?

 えーと。あった! 引っ張るって言うスキル!


 『引っ張る』――重い物を五分間引っ張って移動する。


 そういう事で、一旦走るのをやめて重いけど頑張って引っ張った。


 ――『引っ張る』の条件が整いました。『引っ張る』を作成しますか?


 「はい」


 ――『引っ張る』のスキルを取得しました。


 「ふう。これでよしっと」


 『大丈夫なのか? さっきから苦労しているようだが』


 「問題ないよ。じゃまた走るよ」


 『走るのか! よしきた!』


 僕は袋を引っ張って走り出した。あまり重さを感じない! スキルって凄いなぁ。これならまた来年も引き受けてもいいかもしれない!


 ――『持ち上げる』の条件が整いました。『持ち上げる』を作成しますか?


 うん? 持ち上げる?

 走りながら後ろを振り向くと、袋が浮いていた! って、持つと持ち上げるの区別ってどこ!?

 まあいいか。


 「はい」


 ――『持ち上げる』のスキルを取得しました。


 「ねえ、チェト見て見て!」


 袋を頭上に持ち上げてみた。


 「あ、これに乗る?」


 『面白そうだな』


 袋を下ろすと、チェトがぴょんと飛び乗った。それをまた頭上に持ち上げた。


 『これは楽しいぞ!』


 走り出すとチェトが喜んでくれた。うん、覚えてよかった。



 チェトと二人森の中にやっと入った。結構奥に行くけどチェト大丈夫かな?


 「チェト、抱っこする?」


 『我は大丈夫だ。それよりこっちであってるのか?』


 「うん。たぶん、あれだと思うんだよね」


 森に入る前から見えていた大きな木のてっぺん。木々の間から見えるからそれを頼りに進んでいた。

 これ帰りは夜になりそうだな。うううう。真っ暗な森は嫌だなぁ……。


 しばらくしたら少し開けた場所に出て、大きな大きな木が一本立っていた。さっきから見えていた木だ。


 「本当に大きいね」


 『確かにこれだと人間が普通に登るのは無理だろうな』


 チェトも見上げて言った。


 うーん。この袋を持って登れるのかな?

 あ、そうだ!


 「てい!!」


 僕は木のてっぺんに向けて、袋を思いっきり投げつけた! 袋は見事に枝に突き刺さった。


 「よし!」


 『たまにおぬしは、豪快だな』


 「えへへ。じゃ、ちょっと行ってくるね」


 『一人で大丈夫か?』


 「たぶん? 危なさそうならそのまま一旦降りてくるよ」


 『気を付けてな』


 「うん」


 僕は、この大きな木を登り始めた。木登りに木の大きさは関係ないみたいで、サササッと僕は登って行った。

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