第13話 街には、僕達だけだった
ちゃぽん。
「湯加減よし!」
帰って来た僕はまず、桶にぬるま湯を汲んで、チェトを洗う事にした。
毛を濡らして泡立てて……。
「おぉ! 泡が灰色に……。凄い汚れてるね。もうちょっと我慢してね。もう一回洗おう!」
お湯を掛けると泡は流れて行く。小さいチェトは毛が濡れて更に小さく見える。
さっき、ミルクを飲ませたけどあまり飲まなかった。これ終わったらもう一度飲ませよう。
もう一度毛を洗って、チェトの毛は綺麗になった。
後は、きれいに拭いて……。
「……っぶ」
チェトが、体をぶるんとして、水気を払った。
「おぉ。少し元気になったね。よかった」
自分の部屋に戻ると、チェトのブラッシングだ。お金がなかったので一番安いのだけど、貯めてチェトにあうブラシ買ってあげるからね。
「そういえば、何も鳴かないね」
少し動けるようにはなったみたいだけど。クーンすら言わない。
ブラッシングなんて初めてだから、優しく優しくした。心なしか気持ちよさそうに見えた。
ミルクにちぎったパンを入れたら食べてくれた!
「本当に飼うのかい?」
部屋にいたら母さんが来てそう言った。
「うん。ちゃんと面倒もみるし、その分稼ぐから」
「わかったわ。昼間は私がみてる。だからしっかり稼いでおいで!」
「ありがとう!」
これで安心だ。
□
「おはようございます」
次の日行くと、今日も冒険者商会には冒険者がいない。
「よう。おはよ。今日はまだ来てないぜ。そう言えば、犬ころ連れて帰ったんだって?」
「はい! 凄く可愛いです。チェトとつけました」
「ほう。じゃチェトの為にも頑張らないとな」
「はい! ところでずっと思っていたんですけど、冒険者って僕達以外いないんですか?」
「あぁ。その事か。去年、ここから馬車で1時間程の所に、冒険者の街というのが作られたんだ。冒険者で街を運営している。そっちにいってるな」
「え? 凄いね。でもなんで、わざわざ作ったの?」
「試験的に導入とかで、国内の何か所かに冒険者の街を作ったのさ。一日中開いてるお店に、騒いでも大丈夫な街。しかもどの店でも冒険者カードが扱える。一般スキルのやつらが冒険者になって、店を運営してるのさ」
なるほど。僕もそこのお店で働けたらいいけど……。仕事がないとかなくて、安定してそうだもんね。
「だからユイジュが見回りの為、この街に残ってくれたんだ。依頼は、ランクによって距離が決められている。Fだと街の周りとかな。この街でも冒険者の街でも、Eランク以上なら同じのを受けられるからみーんな向こうに流れちゃったって事だ」
「え? そういうもんなの?」
「まあな」
「向こうに行くなら一人で行けよ」
「あ、ユイジュさん、おはようございます」
「おはよう。見回り行くぞ」
「はい!」
そっかユイジュさん、この街に残ってくれたんだ。それで僕は助かったんだ。でも何で残ったんだろう?
「ねえ、ユイジュさんはなんでここに残ったの?」
「向こうにどんだけの冒険者がいると思ってるんだ。夜も騒いでOKならうるさくて寝れないだろう?」
「なるほど」
って、それだけなのかな?
「まあ、お前みたいなやつもいるみたいだし、残ってよかったよ。でも、早く一人立ちしてくれ」
「はい。頑張ります!」
「返事だけはいいんだよな~」
「え~。頑張ってますよ、僕。ただ仕事がないから……Fランクって少ないですよね」
「Fは、本当に街の周りだからな。採取なら無いに等しい」
「Eランクのも受けていいんですよね?」
「構わないけど、モンスターが出てくると思って依頼受けろよ」
「……それって、僕一人じゃ受けられないんですけど」
「本来は、パーティーを組んで、採取と討伐を一緒に受けるんだ。効率がいいだろう?」
「じゃ、そうしましょう!」
「取りあえずEランクなったら考えてやる」
「やったぁ!!」
あーだこーだって言うけど、ユイジュさんって優しいよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます