第12話 小さな命拾いました

 「よ。っほ。えい。おっと」


 僕は地面を見ながら歩いていた。

 逃がさないぞ。えい。結構影踏みって面白い。


 「よっと……ぶ。あた」


 突然、ユイジュさんが止まるからぶつかっちゃった。


 「さっきから何やってるんだ? 普通に歩け!」


 ――『影踏み』の条件が整いました。『影踏み』を作成しますか?


 お、ちょうどよく終わった。


 「はい!」


 ――『影踏み』のスキルを取得しました。


 影踏みの条件は、3分間動く影を踏み続ける事。それで、『ターゲットロックした影を30分間、影があれば追い続けられる』らしい。

 どういう時に使うんだろう? 尾行しか思いつかない。


 「まったく。おきらくなんだから。いいか、警戒チェックポイントに行ったら冒険者カードを装置にかざすんだ。もちろん、モンスターがいたら倒すんだからな。手伝えよ」


 「え! 僕も戦うの?」


 「当たり前だろう?」


 「どうやって?」


 「どうやってって。ナイフぐらい持ってるだろう?」


 持ってないので、ないと首を横に振ったらユイジュさんが固まった。


 「お、お前! 初心者の心得にも書いてあっただろうが!!」


 「え!」


 えーと、おぉ! 最低限用意しておこうにナイフってある!


 「本当だ! ナイフってあった! 戻ったら買います」


 「普通は、見回りに出る前に買うんだけどな……」


 と、ブツブツとユイジュさんが言っている。


 「ご、ごめんなさい。今日は、応援だけで許して下さい」


 「……はぁ。もういいよ。どうせ、戦えないだろうし」


 そりゃそうだ。戦えるならあの時、一角獣を倒してます。


 「ここだ……!」


 って、ユイジュさんが構えた。え~~! モンスター?


 「なんだ、子犬か。驚かさすなよ。でもなんで、こんなところに……」


 「子犬?」


 見ると、真っ白だっただろう毛が薄汚れ、うずくまっている!


 「この子、生まれたてじゃない?」


 両手を広げたぐらいの大きさしかない。毛が凄く長い。よく見ると耳も凄く長くてたれている。何、このかわいさ!


 「もしかして、飼うなんていうんじゃないだろうな?」


 「ダメ?」


 僕が抱き上げると、眉間に皺を寄せユイジュさんが聞いて来た。


 「ダメに決まってるだろう? 冒険者だろう? それにそんな金あるのか?」


 「じ、時間なら作るもん。ちゃんと、稼ぐ……」


 「最後、声小さくなってるじゃないか!」


 だって、Fランクの仕事ありませんって言われたらどうしようもないじゃん。


 「気持ちはわかるけど大変だぞ? くたくたになって帰って、嫌でも世話しなくちゃいけない。その毛だと、最低毎日ブラッシングだ」


 「ブラッシング!」


 「そうだ。ブラッシングだ!」


 「じゃ、ブラシ買わないと!」


 「お前の場合は、先にナイフだろう!」


 「ナイフも買います」


 「あぁもう! 好きにしろ! 行くぞ!」


 「えへ。ありがとう。僕、ロマド宜しくね」


 僕は、なでなでしながら歩く。

 あ、そうだ。影踏み試してみよう。


 「ロックオン」


 おぉ体が自然に動く。ユイジュさんを見てなくてもちゃんとついて行く! しかも影を踏む距離じゃなくてもいい。これなら楽ちんだ。


 帰ったら洗ってあげよう。そうだ。飼育の本も買わなくちゃ。その前に名前だよなぁ。うーん。そうだ!


 「君はチェト!」


 チェックポイントに居たから、最初と最後の文字からとった。


 「何か言ったか?」


 「ううん。何でもない。ねー」


 「ねーじゃないだろう……。本当におきらくだよなぁ」


 この後は何事もなく、見回り終了した。


 「ほら300テマ」


 「ありがとう! 今日はもう仕事ないようなので、帰ります。お疲れ様でした! また明日~」


 「おい! お前、ブラシだけじゃなくてナイフも買えよ!」


 「ブラシ?」


 「あいつ、犬を拾ったんだ。もうしらん……」


 そんな会話が後ろから聞こえたけど、気にしない!

 チェトとの冒険も、僕の夢に加わった。

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