第9話 お怒りのユイジュ
「ユイジュさ~ん!」
僕は、門で待っているユイジュさんに手を振った。
「お前、やめろ! 恥ずかしいだろうが」
「え? そう? ごめんなさい」
「ったく。で、ちゃんと読んで来たか?」
読んで? ……なんだっけ?
「あ! そうだった! 昨日夢中になって忘れてた!」
「忘れてたぁ?」
どんなスキルがあるか見ていて、寝落ちしちゃったし。残念ながら料理はなかった。魔法系も武術系もない。
しょうもないようなスキルが多かった。というか、誰でも取得出来そうな方法だったから制覇できそうだ!
じゃなかった。
僕は慌てて、背負っていたリュックから本を取り出した。
「持って来てはいます!」
「お前! やる気あるのかよ! いいか、夢を語るのはいい。だがな、そんな事出来るのは、一握りの冒険者だ! 普通の魔法や武術のスキルでも無理なんだぞ。大抵は、暮らして行くために仕事として冒険者をやっているんだ! 冒険者をなめるなよ!」
「ご、ごめんなさい。ちゃんと読みます」
僕は、深々と頭を下げた。
「はぁ……。もういい。こっちこい」
って、怒って向かうからどこに行くのかと思ったら冒険者商会だった。
「悪いが場所貸して」
「おう。ロマド。どうだ調子は?」
とダダルさんに聞かれたけど、どう答えていいかわからないから笑顔を返しておいた。
「ここに座れ」
休憩する為にあるスペースだと思うけど、昨日も誰もいなかった。
ちゃんとテーブルもあって椅子は4つ。それが3セット。
「いいか。その初心者の心得を全部覚えろ! 覚えるまで何も教えない! 死ぬ気でやれ!」
「え? 全部?」
「そうだ。全部だ! 制限時間はない。けど、俺だって暇じゃないんだ。覚えたら俺の前で言ってみろ」
あぁ。そうとう怒らせたんだね。ごめんなさい。
覚えられるのかなこれ……。僕は、本をぺらっとめくる。
そこには、びっしりと10ページにわたって心得が書かれていた。
「では俺は行く」
「はい! いってっらしゃい!」
僕が送り出すと、ユイジュさんは一瞬驚いた顔をしたが、ふんと建物を出て行った。
クククッと笑いをこらえたダダルさんの声が、カンターから聞こえて来た。何がおかしいんだろう?
いやそれよりこれを覚えないといけないんだった。
あ、そうだ確か。
やっぱりあった。暗記のスキル!
――声を出して一ページ分を読む。これを50回繰り返す。
よし! 暗記のスキルを覚えるぞ!
□
ひたすらブツブツと読む事3時間以上。ついにきた!
――『暗記』の条件が整いました。『暗記』を作成しますか?
「はい」
――『暗記』のスキルを取得しました。
★『暗記』――声に出して読んだ箇所を暗記する。
よし、10ページ暗記だ!
僕は、ブツブツとまた本を読んでいく。今度は、暗記するために。
暗記する為に読んでいて気がついたけど、読むスピードがアップしている。速読も覚えれば、早く暗記出来る様になるかもしれない。
これが終わったら条件を見てみよう。
そして、40分程で読み終わり、ふうと一息ついた。
「ご苦労さん」
トンと目の前にコップが置かれた。ダダルさんがミルクを持って来てくれた。顔に似合わず、優しいところがあるよな。
「ありがとう」
「ずっと一心不乱だな。まああいつも責任があるからな」
「はい。頑張って一人立ちします」
「あははは。そりゃ楽しみだ」
そう言ってダダルさんは戻って行った。
さてと、速読の条件は?
――目で追って1ページ分を読む。これを50回繰り返す。
まじか~! 速読を先にするんだった!
でもまあ、ユイジュさんが来るまでしているかな。
こうして一時間ぐらいしたら帰って来た。
「見回り終わりました」
「おう。ご苦労さん。頑張ってたぜ」
ボソッとダダルさんが、ユイジュさんに囁いた。
「じゃなかったら怒る」
「あの、ユイジュさん」
「うん? なんだ?」
「暗記しました」
「はぁ? 暗記しただと?」
僕がそう言うと、ダダルさんも一緒に驚いていた。
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