第10話 ずるじゃなくてスキルの力ですよね?

 酷い。ユイジュさんが僕を疑いの目で見ている。


 「まずその本をよこせ」


 「え? はい」


 言われた通り本を渡す。


 「じゃ、暗記したのを言ってみろ」


 不正しないように本を取り上げたわけね! 僕、全然信用がないんだけど……。


 「あの、目を瞑って言っていいですか?」


 「いいけど?」


 僕は目を瞑った。

 さっき読んだ冒険者の心得。

 そう思うと頭の中に文字が浮かぶ。


 「冒険者の心得――」


 冒険者の心得――


 冒険者の仕事は、危険が付きものです。何事にも準備を怠らない事。

 自分にあった仕事を請け負う事。キャンセルや延滞をすると迷惑になります。また信用もなくします。


 こうして僕は淡々と、浮かんだ文字を発して言った――。



 「――最後に命を大事にしましょう」


 「マジか……」


 ユイジュさんは、絶句している。

 暗記を出来ない事もないだろうけど、一字一句間違いなく10ページ分を数時間でとなると、それこそ暗記のスキルがないと無理だろうなぁ。

 僕のスキルは、スキル錬金。暗記スキルがあるとは思わないから驚いている。


 「集中したらちゃんと出来るじゃないか。あと覚えただけじゃだめだからな。書いてある事を守らないと意味がない」


 「はい」


 「約束だ。明日から一緒に仕事をしよう」


 「やったぁ! あ、でも、今日もちょっとだけ仕事していきたいな。なんて……」


 「まさかと思うけど、お金ないのか!」


 「ありません……」


 だって仕事を請け負って報酬を貰う予定だったんだから。母さんからは、お金を借りてない。


 「ないって……」


 「うち貧乏だからお小遣いもらってなかったし」


 「よし、出来そうなのあるか見てやる」


 そうダダルさんが言ってくれた。


 「ありがとうございます」


 「うーん」


 「え? 僕が出来そうなのないですか?」


 「そうじゃなくて、もう日が暮れるだろう? 近場なのがないんだよな」


 僕も依頼書を見た。

 依頼書は、壁に張ってある。仕事内容の他に、目安のランクと期限、報酬が記載されている。


 近場の薬草――ふと文字が浮かんだ。

 その中の一つ、ラーモンドの実が依頼書にあった。


 「これは?」


 「これか? 近場だけど木のてっぺんにあるんだ。はしごで登るにしても枝が高い所からしかないから結構大変だと思うが」


 「それって木登り出来れば大丈夫かな?」


 僕がそう言うと、二人は顔を見合わせている。


 「一度、木まで行ってみるか?」


 とユイジュさんが言った。

 僕が木登りが出来るという事は信じたみたい。田舎者だからか?



 「お前、何やっている……。登れるんじゃなかったのか?」


 「精神統一……ちゅ……う……」


 『木登り』――両手両足を使って3分間、木にへばりつく。


 ただいま木登りのスキル取得に挑戦中!


 「……あっそ」


 あぁ、手足がプルプルしてきた。3分って長いよう!


 ――『木登り』の条件が整いました。『木登り』を作成しますか?


 「は……い」


 やっとだ……。僕は、手と足を離して、地面に転がった。


 ――『木登り』のスキルを取得しました。


 「素直に出来ませんって認めたらどうだ?」


 僕の顔を覗き込んでユイジュさんが言った。どうやら出来なくて、へばりついていると思っていたらしい。

 それはあっていた。そう過去形だ!


 僕は、むくっと起き上がった。


 「じゃ、行ってきます」


 「え? はぁ?」


 スタタタタ。自分でも驚くぐらい簡単に木を登って行った。本当に上にしか枝が無い木で、てっぺんぐらいに沢山の葉で隠された実があった。


 思ったよりでかい! 直径15センチってそう言えば書いてあったっけ?

 なんとかリュックに入れて戻れば、あんぐりとしたユイジュさんがいた。


 「お前、さっきのなんだよ。なんの為にへばりついていたんだ?」


 「だから精神統一だってば!」


 なんとか500テマを手に入れ、無事に家に帰る事が出来たのだった。

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